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おかしな電話

Posted by 松長良樹 on 04.2020 0 comments 0 trackback


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 ――その男は死ぬつもりだった。人生に絶望したのだ。男は吹きすさぶ強風の中をその岸壁に向かって歩いていた。真一文字に結ばれた口、頬は青白く、髪はぼさぼさであった。そして男は大きくため息をついて履物を脱いだ。
 そのとき不意に電話のベルが鳴った。携帯ではない。 
 男がベルの方向に視線を向けると岩陰に電話が一台置いてあった。
 ――命の電話であろうか? 通常こういうものはこちらから電話するのではないのか…。
 しかし、ベルは鳴り止まない。男は仕方なしに受話器を取った。
「もしもし……」
「お客様、今死なれますか?」
「――はあ?」
「今すぐ死なれますか?」
「は、はい」
「そうですか、今ですとあいにく地獄行きということになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「地獄?」
「はい。申し訳ございません。ほとんどのお客様が天国行きを希望されていらっしゃいますので、天国案内人の天使の数が足りない状況でして、地獄案内人の悪魔なら余っておりまして、今ですと地獄行となってしまいますがよろしいでしょうか」
「……じ・ご・くですか」
「はい」
「できれば地獄には行きたくないのですが」
「さようでございますか。となりますとお待ちいただかないとなりません。天使は出払っておりまして、天使が戻りましてからのご案内になります」
「じゃ、待ちますよ」
「そうですか、まことに申し訳ございません」
「ところであんた誰?」
「あの世サービスの山田と申します」
「……」
「ところでお待ちいただいている間に証明書関係の確認をさせていただきたいのですが」
「は、はあ?」
「天国行きには証明書が必要になります」
「えっ、そうなんですか」
「はい」
「どんな?」
「はい。まず身分証明書ですね。それと住民票、これは本籍地の記載のあるもの。それに登記されていないことの証明書。それと性格診断書、天国行き願書となります」
「ええっ、そんなものがあるわけないでしょうが……」
「そうですか、となりますと仮に本日お死にになりますと地獄行きということになってしまいますね。証明書を揃えていただきませんと行き先は地獄に限られてしまいます」
「そ、そんなばかな」
「申し訳ございません。昨今はコンプライアンスの厳守がとても大切なのです」
「面倒ですね。――まいったなあ」
「お客様、日を改める事をお勧め申し上げます。書類が揃わないと天国にはちょっとご案内いたしかねます」
「……」
 男はかなり不機嫌な顔になってとうとう怒鳴りだした。
「冗談じゃない! 死ぬのにいちいち証明書なんてとってられっか! 死ぬのはやめました。死にません。死ぬのは中止だ!」
「お客様、キャンセルでございますね。わかりました。その場合一年間の待機期間を設けさせていただきます。 万が一その期間を経過されずにお死にになりますと地獄行きとなりますので、ご了承くださいませ」
「……」
「なお特例がございまして、人助け等の善行がありますと証明書さえ添付していただければ他の証明書が完備されない場合でも天国行きとさせていただき……」
 ガチャン!!
 ――男は受話器を地面に思い切りたたきつけた。

     おしまい
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Category : 短編

なぜか瓶の中にあった金貨  

Posted by 松長良樹 on 01.2020 0 comments 0 trackback
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 ――灼熱の国に魔人がいました。大きく強大な力を持ち自分の思うがままに生きていました。人間など敵ではありません。人間界を荒らしまわり財宝を強奪し、美女を攫い、人間のつくる最高のご馳走をいつも食べていました。
 勇者が何人も彼に挑みましたが、ことごとくが魔人に殺されてしました。人々はなす術もなくただ神に祈りました。
それから幾日か経つと、ついに祈りが通じたのか悪行が神の耳に入りました。神は怒り、魔人を葡萄酒の瓶の中に閉じ込めてしまいました。
 魔人は最初、瓶などすぐに割ってやると高をくくっていましたが、どうして瓶は簡単に割れませんでした。神の力は偉大だったのです。
 神はぽいと瓶を大海に投げ込むと鼻歌を歌って天界に帰ってしまいました。
 永い年月が経ちました。魔人にとってそれは気の遠くなるような、窮屈で屈辱的な日々でした。魔人は不死身なので死ぬ事もできません。
 煮えくり返るような激情が何度も魔人の胸中に巻き起こりました。しかしどうする事もできません。悪行の報いかと反省でもしようかとも思いましたが、魔人は生来、猛々しい気性なので簡単に反省も出来ませんでした。
 魔人は思いました。
 ――誰か、誰でもいいからこの瓶を拾って、栓を抜いてくれまいか。ここから開放してくれまいか。そうしたらその者の願いを何でも叶えると。財宝だろうが、出世だろうが、不老不死だろうが、何でもお望み次第の夢を叶えると。場合によってはその者の召使いにでもなろうと――。 
 しかし、瓶を海から拾い上げ魔人を解放するものは現れませんでした。
 海に投げ込まれてから百年が既に経っていました。魔人は発狂寸前でした。魔人はまた思いました。
 ――こんなに待っても誰も助けてはくれないのか。実に忌々しい。こうなったらこの怒りを最初に瓶の栓を抜いたものにぶつけてやる。その者を八つ裂きにして鮫に食わしてやる。その者だけではなく家族共々皆殺しにしてやると――。
 魔人は苦しみの中で半分気が違ってきていました。
 
 そして自分を解放してくれるであろう者への、感謝と憎悪が頭の中でぐるぐる回りだしました。自分でもどうしていいのか判りません。
 それからまた永い年月が経ちました。千年以上の年月です。

 ある時、ついにその瓶が海岸に流れ着きました。
 たまたま浜にいた青年がその瓶を発見しました。手に取るととても古い茶褐色の酒瓶でした。光にかざし、コルクの栓を取ると大きな魔人が躍り出てきたのです。緑色の顔につり上がった鋭い眼をしていました。
 青年は腰を抜かしました。驚いて生きた心地さえしません。すると魔人は、なぜか瓶の中にあった一枚の金貨を空中に高く投げ上げたのです。そしてその金貨を左手の甲に着地させ、それを右手で隠してこう言ったのです。
「言ってみろ、裏か表か!」
 青年は恐怖にかられ、小さな声で仕方なく答えました。
「う……」

      おしまい

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Category : 短編

マジック(The Magic)

Posted by 松長良樹 on 29.2020 0 comments 0 trackback
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 南米べネズエラ、ギアナ高原の付近でサルとも人ともつかぬ部族が発見された
 全世界が注目する大ニュースである。早速日本からも研究チームが現地に派遣された。実に原始的な部族であった。彼らは一片の動物の皮を身に纏っていた。そして小柄で少数で言語を使わず、ほとんどジェスチャーのような身振りで意思を伝えていた。
 文字も言葉も無い彼らの驚くべき実体が次第に明らかになっていく。
 チームは彼らをオラン・バドットと命名した。森の道化師という意味の現地語である。サルから人へのミッシングリングの解明に光がさすようであった。彼らは当初チームに強い警戒心を抱いていたが、チームの根気ある友好の努力は頑(かたくな)な彼らの心を徐々に解きほぐしていった。
 特にチームの持って行ったケーキは彼らに好評で、喜んで彼らはそれを食べ、親密の度合いが一挙に濃くなった。友好関係とでもいうべきものが確立しつつあったのだ。 彼らにとってもチームの隊員達にとっても楽しい時が流れた……。
 しかし日本から来た電報に彼らの生死を問わず本国に持ち帰り、その標本と研究成果を世界の学界に発表する旨が記してあったので、チームリーダー思わず眉間にしわを寄せた。
 そんな折り、チームの中にマジックの得意な一人の隊員が現れた。彼はなにを考えたのかマジックで彼らを喜ばせようと思いついたのだ。彼は大学時代にマジック研究部にいたので玄人跣(くろうとはだし)の腕前らしかった。
 一つのピンポン玉が彼の手の中で二つになり三つに増えた。しかし彼らにはまったく反応がなかった。今度は一本の紐を真ん中で切り、切れた両端を握ると切れたはずの紐は、もとどおり一本の紐にもどるというマジックだった。
 しかしやはり彼らには何の驚きもなかった。チームの皆は喜んだがオラン・バドットには反応がなかった。そしてマジックの得意な彼は最後にとっておきのマジックを披露した。
 何も無い彼の掌から突然、大きな白いボールが現れた。そしてそのボールを空中に放り出すとボールは空中に見事に消え失せた。 どうだ。 と言う表情を彼がした。
 しかし彼らは尚も、まったく無表情なのであった。
 その様子を見てチーム隊員たちは、彼らの知能はかなり低くマジックの意味さえも理解出来ないのだと結論を下した。しかしその時彼らはへんな踊りを始めたのである。それは日本のドジョウ掬いのしぐさに似ていた。 
 腰を上下に動かして滑稽でそれは隊員たちの笑いを誘った。しかしその笑いは長くは続かなかった。突然オラン・バドットの中の一人が直立不動の姿勢を示した。そして怒りとも笑いともつかぬ「キーーーーーーッ!!」という叫び声をあげた。
 ――するとどうだろう。今までその場にいた彼ら全員の姿がガラスのように透けていったのである。隊員達の驚きようたるや並み大抵のものではなかった。
 思わず彼らの一人を抱きすくめようと飛びついた隊員であったが、オラン・バドットは全員、煙のようにその姿を消した。そして彼らは二度と人間の前には現れなかった。

             おしまい
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Category : 短編

自殺者の手紙

Posted by 松長良樹 on 27.2020 0 comments 0 trackback
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 この手紙を見て君がどういう顔をするのか僕にはおよそ想像がつく。たぶん君の顔にはもう血の気もなく、意識も霞んでいるかもしれない。実をいうと君は僕に確実に殺されるのだよ。君が目を覚ました時にはもう遅いのだ。
 すべてが手遅れなのだよ。君は腹に刺さった鋭いナイフを見たら気違いみたいに泣き叫ぶかな。それとも声も出せずに、のたれ死ぬのかな。想像するだけでぞくぞくするよ。まあ見ものだ。
 だが本来が情け深い僕は、理由もわからずに非業の最期を遂げる君にせめて、その理由を明かそうかと思う。その為にこの手紙を書いているのだ。
 つい先週の事だ。僕は主治医の園田先生から君と麻衣が結婚すると聞かされた。それを聞いた時、この僕はあまりのショックで息が出来なかった。呼吸困難に陥った僕を園田先生が驚いて介抱してくれてやっと落ちつけたのだ。
 だが、僕はその時、僕こそが麻衣を誰よりも深く愛しているとは言えなかった。どうしても言えなかった。僕は君と違って根暗だからね。晴彦君。君が優等生なら、僕は劣等生だものね。
 それにしても忌々しいじゃないか。麻衣は君と結婚することを僕に言わない。それに最悪な事に僕を君と間違えて愛し始めているようなのだ。いや間違えてじゃない。ああ、悲しいじゃないか。許せないじゃないか。麻衣に取っちゃ君も僕もさほど変わらないのかもしれない。
 冗談じゃないのだ。僕には一大事だ。君は解離性同一性障害って知っているか。簡単に言えば多重人格の事だよ。知っているに違いないよね。先生から説明は何度も受けたはずだ。
 いつの頃からか僕と君は一つの身体を二人で共有し始めた。だから君にも全く同情できないわけじゃない。父は酒乱で何かにつけて僕を虐待した。まったく恐ろしくて母はいつも泣いていた。そのときに君は現れたのだよね。ネガティブな心をもった僕の前に平然として。園田先生によれば崩壊寸前の自我を守るためにだ。僕は根暗だが君は陽気だった。まったく喜劇だな。
 しかし、それにしても僕は麻衣が君に抱かれて恍惚に酔うなんて断じて許せないのだ。君と僕は違うのだ。歳までもが違うのだ。園田先生の分析によれば君は名を遠藤晴彦と言って十八歳だ。僕は遠藤修二と言って二十三歳。精神分析の得意な園田先生のカルテによればそうなっている。むろん名付け親は園田先生だ。
 どうだ、事態がわかるか遠藤晴彦君。わかるはずだ。僕はここに深い覚悟と決断を持って君を殺す。しかしそれは遠藤修二の自殺と同義だ。皮肉な話だ。まったく悲しい事だが僕はそれを実行する。
 仮に君が僕にどう詫びようとしてももう遅いのだよ。これは喜劇的な死ってやつだ。誰も同情なんかしっこないし、もししたならそいつは偽善者だ。
 
 はたして君はここまで読んでくれたのだろうか……。まあ読んでくれているものと仮定して先を書こう。しかし麻衣と君の結婚の件は僕には実に辛かったよ。僕らは恋のライバルといったところか。まったく笑えるよ。いったいいつから君はその紳士面を引っ提げて麻衣と寝ていたのだ。
 そのことを知ったとき僕は激情に駆られてしまった。普段おとなしい僕が殺意に取り付かれて凶暴な獣に変わっていたのだよ。
 君を殺してしまいたいのだ。しかし、くどいようだが、二重人格である僕にとっては自殺をする事以外に君を殺すすべがない。僕はこの手記を書き終えたらすぐにナイフを腹に突き刺すつもりだ。この手紙を読みたまえ。そして泣きたまえ。苦悶したまえ。
僕はすぐ、君が死ぬ前に君を目覚めさせてこれを読んでもらうつもりさ。
 僕は永遠に眠るよ、君の覚醒の方法については園田先生の話を注意深く聞いて会得しているのさ。
 ――さようなら。遠藤晴彦君。天国でいい夢でも見りゃいいや。天国で、いや、地獄で君と、もし会ったら僕らに二つの身体があるように祈るよ。君が天国に行けるように。
 最後に麻衣、悲しまないでほしい。僕にはこうするよりなかったのだ。許してくれ麻衣。心から愛する麻衣。
 * *
 ――手紙を手にした遠藤晴彦は、床が鮮血で見る見る深紅に染まってゆくのを、泣き声もたてないまま、ただ静かに眺めていた。

           おしまい

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Category : 短編

世界珍事件スペシャル

Posted by 松長良樹 on 24.2020 0 comments 0 trackback
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●空飛ぶ入れ歯

 大通りを入れ歯が飛んで行った。総入れ歯が空中浮遊していたのだ。
 人々が仰天して大騒ぎになった。後を追う者や、腰を抜かす者が出て、しまいには警察まで出てきた。
 そしたら入れ歯がしゃべった。
「いやあ、驚かせて、すまん、すまん。実はわしは透明人間なのじゃが、透明薬を飲む際に入れ歯を外すのを忘れておったんじゃ。すまんのう。最近、物忘れが酷くて」


●透明薬

 博士は長年の苦労の末、ついに透明薬を発明した。
 これを飲めば誰でも透明になれるのだ。博士は公衆の面前でその透明薬の効果を証明しようと思った。
 そして助手にこう言った。
「さあ君 透明薬の実験だ。くすりをとってくれたまえ」
 助手が困った顔をした。
「博士 すいません 透明薬を入れた容器が透明になって
どこにあるのかさえわかりません!」


●ネバーエンディング・ストーリー(終わりなき物語)

「ついに書けたぞ!新ネバーエンディング・ストーリーが。終わりなき物語の完成だ!!」
 新作に悩む作家が叫んだ。
 それを読んだ出版社の人が、がっかりとため息をついて言った。
「先生、これって物語の終わりに『冒頭に戻る』と書いただけじゃありませんか!」

       おしまい

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Category : 短編
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