愛しき君を食す 8

Posted by 松長良樹 on 05.2011 0 comments 0 trackback
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 私は尚も思いました。私はもしかしたら最初から新太郎を愛してなんかいなかったんだ。彼の社会的な有能さや財力や、私への献身を……。そうだ! そういうものを私は愛していたんだ。だから彼に合わせて何を言われてもおとなしく彼の言うことをきいてきたんだ。ただ、それだけの事なんだ。
 ああ、献身的な純粋な愛とは最初から無縁! そう思うと今度は私は自己嫌悪に襲われました。そしてその愚かでいやらしい自分はきっと鬼神のような顔をして剣を握り締めていたのです。
「有梨香!!」
 そう叫んで新太郎が私を抱きしめようとしました。

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愛しき君を食す 7

Posted by 松長良樹 on 04.2011 0 comments 0 trackback
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 ――ああ、私にはもうあの光景が一生忘れられない。
 地下室の大きな作業台の上に女が寝かされていました。真っ白な蝋のような艶めかしい裸体をさらして女が横になっていたのです。近づくと私は気絶しそうになりました。そして危うく嘔吐しそうになりました。女の左足はちょうど腿のあたりから何か鋭い刃物で切断されていたのです。
 私は全身を小刻みに痙攣させながらも女の顔を覗き込みました。と、それは、ああ、それは妹の変わり果てた無残な姿だったのです。
 私は絶叫しました。何度も絶叫しました。床がどす黒い血で覆われています。私はその血に足を取られて転びそうになりました。しかし私は転びませんでした。なぜなら、私の腕を誰かがしっかりと握ったからです。
 それは暗闇から躍り出た新太郎だったのです。私はすべてを悟りました。新太郎はどこにも出かけてなんかいない。ああ、新太郎はここにずっと、そしてここで……。ああ、妹を喰っていたんです!

愛しき君を食す 6

Posted by 松長良樹 on 03.2011 0 comments 0 trackback
 それがある時、不意に私の妹の優華が私たちの屋敷を訪れたのです。彼女はとても明るい笑顔を見せて私たちのもとに婚約の報告にやってきたのです。とても久しぶりだった私達は四方山話に花を咲かせました。
 彼女はとてもきれいになっていました。健康美が尚一層輝いていたのです。
 私たちは元々仲がよかったものですから、妹の自慢げな顔をみながら私は妹を祝福しました。そこに新太郎も帰宅して三人は意外なほどに話が弾み、新太郎は妹に泊まっていくように勧めました。新太郎は今夜は僕が料理を作ると言って喜んでいました。それはそれは嬉しそうに。


愛しき君を食す 5

Posted by 松長良樹 on 02.2011 0 comments 0 trackback
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 堪らない悲哀とどうしようもない絶望感で私の心臓は張り裂けそうでした。
 私は取り乱して自分の部屋に逃げるように駆け込んで鍵をかけました。そして泣いたのです。その嗚咽は果てしなく続きました。泣いても泣いても涙が止まりませんでした。
 よりによって彼が、ああ、愛する彼が私の耳を食べるなんて! そんな馬鹿な事があって良いものですか! それに残酷な事にあの人は私にまで自分の耳を食べさせた。私の彼に対する信頼は瓦礫のように崩れていったのです。私は無意識にベッドのシーツを引き裂いていました。戦慄と恐怖が私の心を何度も襲って来ました。

愛しき君を食す 4

Posted by 松長良樹 on 01.2011 0 comments 0 trackback
「なーに、それ? 美味なの?」
 私はそう訊きましたが彼は答えませんでした。
「君もお食べ」
 彼がそう言いましたので私は好奇心に駆られ、それを食べてみました。それはお世辞にもおいしいものではありませんでしたが、私は彼の手前、さもおいしそうにそれを食べました。
 そしてもう一度これがなにかを訊きました。すると彼はそれが完全に私の胃袋に入ったのを確認してから小声でこう言ったのです。
「これは耳たぶさ、愛しい君のね」

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