青い瞳のエミーナ 17

Posted by 松長良樹 on 07.2011 0 comments 0 trackback
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 ホテルの正面の大理石の階段を数歩上がると、受付らしいテーブルが容易されていた。背の高い頑強そうな黒人が二人いる。薄いサングラスにスーツ姿だ。背後には尋常でない雰囲気の男達が数人控えていた。
 黒人は高林の胸に付けられた身分証を確認した。顔写真とネームを一瞥する。
「どうぞ」
 低い声をだして招くような手振りをした。勿論身分証は西条の組織が偽造したものだ。中庭に進むとそこはパーティー会場だった。テーブルがいくつも並べられ、豪勢な料理や酒がところ狭しと並べられていた。
 官僚や政治家らしい紳士淑女たちが雑談を楽しんでいた。高林の知っている日本の政治家の顔もその中に混じっていた。
 思わず足を止めそうになると西条が後ろから高林の背中をこずいた。
「真っ直ぐ進むんだ。高林君」
 スポットライトのあたった中庭からホテルの中に入ると、格調高いエントランスにでた。白い壁のせいか会場が一段と輝くようだった。西条が眼で合図をすると、その視線の先にゴシック調のテーブルでシャンパンを飲むいかつい男がいた。
 底知れない落ち着きを持つ男であった。脇にエミーナがいた。その男とエミーナが会話している。彼女は微笑んでいた。
 思わず息を呑んだ。高林の知るエミーナではなかった。早口でしゃべり男の機嫌を取っていた。
 男は肩幅のあるがっちりした体躯に迫力のある眼光を有していた。年は五十前後であろうか。白いタキシードを着ていた。
 エミーナは真紅のカクテルドレスを着ていた。胸元は大きく開き、裾は床に引きずっている。赤いルビーの付いたチョーカーをつけていた。目も眩むほどの艶やかさであった。
「あれが甲田だ」
 西条が言った。
「確認したら行くぞ」
 高林の心臓はもう爆発する寸前だった。

 高林はホテルのフロアを歩き廊下に出て大きな柱の影に身を隠した。
「いいか高林君。ここで奴とエミーナを待て。そしてタイミングをみて撃て」
 そういい残して西条が踵をかえした。表情の無いのが不気味だった。
 長い時間が過ぎた。高林の顔色は蒼白だった。(甲田など来ないでくれた方がどんなにいいだろう)と高林は思った。このまま逃げ出したい心境だった。
 若い女の笑い声が聞こえた。高林にはそれがエミーナだとすぐに判った。柱に身を隠して覗くとエミーナが甲田と腕を組んでこっちに歩いてくる。エミーナが強引に甲田を連れてきた雰囲気だった。
 二人は高林の潜む柱のすぐ側に来た。壁にエミーナが背中を付けた。それに甲田が覆いかぶさるような格好になった。
 二人の会話が途切れエミーナが突然甲田に抱きついた。狙撃のチャンスをエミーナがつくったのだ。大きな甲田の背中が高林の目の前にある。
 銃を取り出し安全装置のレバーを下に下げる。高林の手が大きく震えている。引き金に指が掛かる。しかし指に力が入らない。どうしても引き金が引けないのだ。
 高林は泣き出しそうな顔だ。10秒が経った。20秒が経ったやがて1分が経った。何とも途方もなく長い時間であった。高林の眼が虚ろになり、がっくりと肩を落とす。
 瞬間に甲田が振り返った。黒々とした眼が大きく見開かれた。
「うおーっ」
 という野太い叫び声を甲田が上げた。その瞬間、高林に生気が蘇った……。


                         つづく
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