お集まりの皆さん

Posted by 松長良樹 on 12.2011 2 comments 0 trackback
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「お集まりの皆さん、私は不死身です。死なないのです」
 哲学者のような風貌の男がビルの屋上で演説していた。
 有名デパートということもあって大勢の人々が男の話を聞いていた。
「いいですか皆さん、意識の力が人間の運命を決定しているのです。思いこそ全てなのです。かの有名なデカルトは『我思う、ゆえに我あり』といいました。彼は我々に真理を説いたのです。意識、想念こそ肉体を含む物質的な現実を制御しうる、唯一絶対なものなのです」
 その話を聞いている人もいれば、ただで迷惑そうな怪訝な顔をしている者もいた。
 しかし尚も男の弁舌には力がこもっていった。
「いいですか、あなた方の目前で私は不死の証明をしてご覧に入れましょう。なぜ私が不死身かというと私が私のことを不死身だと信じているからです。そう、生半可になどではなく、心の底からそう信じているのです。したがって私は不死身だ」
 訳のわからない男の話に立ち去る者も、あくびをする者もいた。ただ笑っている者、真剣な顔の者、人様々であった。
「この屋上から私は今飛び降りる。しかし死なない! なぜか? 死なないと信じているから!」
 人々のざわめきが大きくなった。
「やめてーっ」
 という女性の悲鳴さえ聞こえた。しかし男は意外なほど身軽に屋上の鉄柵を乗り越えたのだ。
 男の足が屋上を蹴った瞬間、間一髪で男は何者かに腕をつかまれてその場に引きずり倒された。見れば屈強な若者であった。
「命を粗末にしちゃいけない」
 若者がそう言うと、男はなぜか輝くような表情でこう言った。
「みなさん! ご覧になりましたか、私は不死身だ。証明して見せましたよ!! 私の想念がこの若者をつくり上げたんです。言い換えれば私の想念が私を救ったんです!」
「……」
 その言葉を聞いた人々は実に失望した表情でその場から去っていった。気が抜けたような顔だ。もちろん若者とて例外ではなかった。 
 
 男はなにやら異様な達成感を持った顔をして、いつまでも屋上から街並みを眺めていた……。


                               おしまい。
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デカルトの懐疑論は自分の存在がどこにある、ということを
説いて結局はそう疑ってる根本の意識に自分が存在している
という結果に辿りつきますね。この話は考えというより”言葉”が
人間の思想や存在を根本的に位置付けている、分析哲学の
たぐいだと思うんですよね。
この人もそうですが、自らの哲学っていうのは他人に理解されない、
っていうのが多いんだと思います。哲学とは自分で自分の答えを
導くということですからね。
2011.01.13 20:32 | URL | hiro1468 #TJdQLek. [edit]
hiroさん 今年もよろしく。
この話は哲学的な話でもなんでもなく、ただのモチーフとして哲学的な材料を扱った、ただのエンタメにしかすぎません。哲学者、あるいは宗教者を覚めた、客観的な視点から見ると、こんなにも滑稽であるというのがこの話の表現したかった部分です。といいつつ自分は哲学にも興味があり、ショーペンハウエルの本に随分凝ったこともありました。コメントありがとうございました!
2011.01.13 22:00 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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