読まないほうが良いお話(忠告つき)

Posted by 松長良樹 on 02.2011 0 comments 0 trackback
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――麗奈が白血病で医師から死の宣告を受けたとき和也は泣き崩れた。
 目の前の美しい寝顔には、もはや生気は感じられず、瑞々しかった肌は紫色に変色していた。やりきれない思い。そして走馬灯のようによみがえる麗奈との楽しく、そして甘い思い出。
 二人は来年挙式予定だったから和也は仕事さえ手につかず、麗奈の傍らでずっと見守りつづけた。そこは病院の治療室であり、すでに麗奈はこん睡状態で手の施しようもなかった。
 それは深夜一時になろうとした時であった。不意に麗奈の眼が開き、弱々しい声音で彼女はこう言った。
「ありがとう。和也、あたしのことは早く忘れて他にいい人を見つけてください。残念だけど仕方ないのね。さようなら。愛していました……」
「麗奈―――っ!!」
 和也が叫んだ時には麗奈は目を閉じていた。幻覚だったのだろうか。そんな訳がないのである。意識が戻るわけもなかった。
 和也はその時中学生の時に飼っていた柴犬、ぺスの事を思い出した。やはり血液の癌である白血病に侵され、弱り果て死を寸前に迎えながらも、家族には懸命に愛想をふりまこうとするけな気な、痛々しいあの時のペスの姿。和也が近づくとふらふらしながらも立ち上がり、尾を振ろうとして、ばったりと倒れてその尾は動かなくなった。
 あのときの記憶が今の麗奈の姿と重なって苦しい程に胸を締め付ける。
「ああ、神よ。こんな無慈悲な事ってありますか! 彼女が、そして僕がどんな悪い事をしたっていうのですか!!」
 ――彼は心の中で絶叫した。

 あくる日、麗奈の命は風前のともし火であった。夜になり和也は病院のロビーで不吉な陰のある見知らぬ男を見かけた。
 顔は青白く黒い絹のマントを羽織っていた。まるで舞台役者のような格好である。不審に思い和也が恐々あなたは何者ですか? と尋ねるとその男は俺は死神だと答えた。
 恐れ慄いた和也だったが、さては彼女をあの世に連れ去ろうと言うのかと問いただすと、図星だと言う。
 和也はなんとか死神を説得して彼女を死の淵から救おうとしたが、死神は聞き入れない。狂気した和也はそれならばいっそ二人とも死なせて欲しいと死神に頼み込んだ。
 二人とも助けるか、二人とも殺すのか、二つに一つなのだと彼は必死で死神に説明した。二人は深く愛し合っていて永遠に一心同体で、決してして離れられないのだと……。
 しかし死神は今回死亡する予定は確実に一人で、二人とも助ける事も、二人とも殺すことも出来ないのだと主張した。
 そこで和也はあるとんでもないことを考えついた。本当にとんでもない考えである。和也は彼女の身代わりに死のうなんて、そうは思わなかったのだ……。

「死神さん今夜、誰かが死ねばいいんですか?」
 和也がそう訊くと死神は無表情で答えた。
「そうだ。俺の役目は誰か一人を黄泉の国に連れて行く事だ」
 そこで和也はしばらく考え、こう切り出した。

「そうだ、死神さん。実に突飛な事を言うようですが今、この話を読んでいる人を麗奈の身代わりに連れて行ってもらうわけにはいかないでしょうか。お願いです。死神さん。どうか、どうか僕の切なる願いをお聞き届けください。お願いします―― どうか!」
 意外に人情家の死神は仕方ないという顔つきで、渋々こう答えた。
「うーむ。おまえが、それほどまでに言うのならば……」

                       おしまい。


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