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幻想奇譚 前編

Posted by 松長良樹 on 11.2011 0 comments 0 trackback
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 ――私の身の上に起こった恐ろしく幻惑的な体験について記そうと思うのだが、この場合私が正気であったか否か、それすらも疑わしく(客観的な意味において)ただ私には一元的な自我という立場からこの話を述べるしか方法がないのだから、多面的、或いは懐疑的な観点からこれを確かめようと試みても、これもまた憶測の範疇に入ってしまうのだろうから、ここはあえて淡々と若干の勇気をもってこれを記すしか他に方法がないと思う。

 この話が単なる夢であったと結論づけるのは容易い。また夢ではないから信じてほしいなどと願う気は私には微塵もない。夢であったとする方が私は楽なのである。夢なのだと覚めて語れたら私の精神はどんなに健全であるだろうか。そのほうがむしろ格好の話のタネになるではないか。
 しかしながらそうはいかないのだ。どう考えどう分析しようとも……。
 今、私は独りでいる。長年連れ添った妻がどういう訳か失踪してしまい、行方知れずになって久しい。妻に対する恋慕の情は日に日に高まるのだが、この不可思議な体験を妻に聞かせた時期は妻の失踪の直前なのだ。
 したがってこの奇妙な体験と失踪とが密接に関連しているように私には思えてくるのだ。

  *  *

 あれは夏だった。寝苦しく蒸し暑い夏の夜であった。首筋にじっとりと汗をかいて私は目を覚ました。柱時計がぼんやりとして針は午前二時を回っていた。
 そのとき酷い暑さの中に冷たい寒気のようなものを心に感じた。その寒気というのが物理的な冷気とはまったく次元を隔てていた。心に寒さを感じたなどとはあの時が最初で最後であったはずだ。
 無意識に寝返りを打とうとして、私は体中を針金でまかれたような異様な感覚を覚えた。不快で歯がゆい気分が重く圧し掛かるようであった。なぜか硬直して体が動かないのだ。忌々しい金縛りというものを生まれて初めて体験した瞬間であった。最初は慌てたが、私は懸命に冷静な状況判断を心に命じた。
「体は寝ているのだ。なのに意識だけが覚醒してしまった」
 私はそう自分に言い聞かせた。事実そうなのだと思うのだが、あの時は実に不吉な霊的ななんとも割り切れない思いに囚われてしまった。
 あの時の恐ろしさ、切なさは今でも心に残っている。それからどのぐらいの時間が経過したのかも分からない。私は途方にくれたまま、ただ天井をじっと見つめていた。無論一言も発する事など出来ない。と、窓の外ににわかに光るものを見止めた。それは淡く細かい点状に連なる光源であったが、その光は少しづつ強まり群をつくって螺旋状に回り出した。
 顔を動かす事も出来ないので私はその光を夢中で目で追った。向かって左側の窓にはカーテンも閉めておらず、外は暗闇だったものがその光を映して異様に輝いて見えた。
 恐ろしく嫌な感じがした。まるでなんというか、宇宙人に人体実験でもされる患者のような、なんとも遣る瀬無い、そのくせ驚愕と興奮に満ちた複雑至極の思いだった。するとその光は金の砂のように輝いたまま、難なく窓をすり抜けて部屋に侵入してきたではないか! 
 息が止まりそうで目を閉じたかったが、逆に怖くてそれを見ずにはいられなかった。その光はいったん床に落ちるように散って広がった。と同時に カラン、カラン、カランという金属音が頭の中に響き渡った。それはまるで鉄筋でも打ちつけるようなこの世の物とは思われない異音なのである。精神を崩壊させるような甲高い音の高鳴りなのである。
 私は息を大きく吸い込みたかった。深呼吸してなんとか精神を落ちつけたかった。しかし、苦しくてそれすら儘ならない。
 それどころか目を疑うような怪事が続けて勃発したのだ!
 その音の主が歴然と私の左右前方に二つ現れたのである。
 それは金色の円柱だった。太さはおよそ七センチか、いや、十センチか正確にはわからないが、それは見事な光沢を放ったまま円を描いてゆっくりと回っているのだ。長さは一メートル位の円柱で、それが宙に浮いたまま金棒を振うように回転しているのだ。
 なんという異様さであったろうか。それにもまして気が変になりそうな金属音が私を苦しめた。どうしたらいい! 私は心の中で何度も絶叫した。
 全く私はいかに無抵抗な、非力な、何の力を持たない者であるのか、あの時思い知ったような気がする。しかしその超常現象はそれがクライマックスではなかった。

                                つづく
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