幻想奇譚 後編

Posted by 松長良樹 on 12.2011 0 comments 0 trackback
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 その円柱は私の頭の両側に固定され回り続けた。そして床に沈んだ砂金のような光の粒がゆらりと揺らめいて私の頭上正面の一点に集まりだしたのだ。
 その時気づいたのだが、その時点で私を取り巻く風景は暗黒の無限の広がりを備えていた。窓も、戸も壁さえもがいつの間にか消滅していた。家がなくなったと表現しても間違いではない。しかしそれどころではなく、もっと重大な事が目前に展開されたのだ。
 私は強烈な磁場のようなものを直感的に感じ取っていた。頭上の一点に何か得体のしれないエネルギーがあり、それが金色に輝く粒子を吸い寄せるように集めている。
 そこに何かがゆっくりと、しかも見る見るうちに形成されていくのだ。
 これはもう本当にまずいと思った。このままだと世界が終ってしまうような焦燥感に胸郭を締め付けられ、悶絶するようであった。
 とにかく声を出そうと思った。声さえ出せればなんとかこの幻想から解放されるのではなかろうか。きっとこれは悪夢で、声を出した瞬間にそれは露のように掻き消えてしまうのではないか。しかしそれは無意味な抵抗でしかなかった。
 
 一方、私はそれの成り行きを確かめずにはいられなかった。
 金色の光は益々その威力を増し、金色を超えて白色に輝きだした。そして粒子は人型の半身像を形成していったのだ。まるでマネキンの上半身を切り取ったような白色の彫像だ。
 眼のないその彫像はじっと私を凝視するようであった。ぽっかりと落ち窪んだ眼底には瞳がないのだ。それでいて私はその強烈な視線を感じたのだ。
 胸に岩でも乗せられたような重さを感じた。苦しくて息さえできない。私は恐怖を超えた魂の震えを抑えきれなくなった。そして渾身の力を込めて叫ぼうとした。
 そしてようやく声らしいものを発したのだ。
「うっ!!」
 これが精いっぱいだった。これ以上は到底言葉などにはならなかった。
 それでもその彫像は暫らく私を見つめていたが、やがて振り返るようにして後ろを向き、私から遠ざかり始めた。瞬間に胸がふっと軽くなった。カラン、カランというあの音も弱くなり遠ざかり始めた。

 そして金棒は暗黒に吸い込まれるように見えなくなり、その彫像はまるで花火のように空中に四散したのだ。実に鮮烈な光景であった。
 あれはいったい何だったのか! 夢にしてはあまりに生々しいではないか!その記憶は私の脳裏に深く刻みこまれ、思い出とはまた別の場所に厳重に保管されているのだ。

   *   *

 私はそのことを未だに誰にも話していない。話したとしても夢としてであり、変人、奇人と思われるのも嫌なので体験談としては話さないのだ。十年来連れ添った妻にも話さずにいたのだが、旧友と道でばったり再開し、酒を飲んで遅い帰宅となったとき、どういう風の吹き回しか、妻にポロリとその話をしてしまった。
 すると妻の反応がまったく予想外のものであった。彼女は私を正面からまじまじと見つめこう言ったのだ。
「あたし、その先を知っているわよ……」
 私はまた、ちょっと酒に酔によった私をからかうつもりで妻がこんなことを言ったのかと思ったがそうではなく、いや全くそうではなかったのだ。
 それ以来私は妻にあっていない。あの晩が妻を見る最後になろうとは夢にも思わなかったのだ。ああ、あの時の妻の瞳の奥にきらめいた不思議な妖火を私は今も忘れられない。
 そしてそれを思い返す度に心の裡がただ、ずきんと痛むのだ……。

                            続編につづく
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