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転寝(うたたね)後編

Posted by 松長良樹 on 21.2011 0 comments 0 trackback
っかかかいい

 眼を開けると玲子の前にインディアンが居た。
 そう、あの西部劇に出てくるインディアンだ。浅黒い顔に刺青があり、羽飾りを髪につけている。とても厳かで崇高な感じがした。
 場所は仄暗いテントの中で、革のような褥(しとね)の上である。もうこの時の玲子は気が動転していて時代さえわからなかった。
 優しい眼で慈しむようにインディアンの男はこう言った。
「私の名はタニオス・マニ。私は様々な存在となって、今まで数多くの生を生きてきた。それは熊だったかもしれない、ライオンだったかもしれない、鷲、それとも岩、川、木でさえあったかもしれない。そんな事、誰にもわからない。でもそれでいい」

 玲子は意味さえわからず、絶叫しそうになったのだが、そのインディアンの瞳があまりにも美しく、真っ直ぐに自分を見つめているので、大きな声を出す事はなんとか免れたのである。
 それどころか数分もしないうちに玲子はそのインディアンの男に魅了されてしまったのである。男の蒼い瞳は神秘の泉を湛えていたのだ。
「木になっていると、とても気持ちのいい日々がある。岩になっている方がいいような日々もある。それからまた、鷲になるのも悪くない理由がある。私は精霊に祈っていた。いつもいつも私はあなたを精霊と共に想像し、待っていた」

 インディアンはそう言った。精悍な顔立ちの野生の男である。語られた言葉はインディアンのそれだったに違いなかったが、その言葉が玲子の心にダイレクトに伝わってきたのである。
 大気はひんやりとして澄み渡り星空はどこまでも高かった。
 月はこの上もなく美しく、下界を照らしていた。
「私は様々な存在となって今まで生きてきた。そうだ、あなたもきっとそうなのだ。そして私の祈りが私達を、今ここに引き合わせたのだ」

 玲子はもう帰れなかった。あまりに遠方(時代も含めて)に来たためにもう帰ろうとする気力さえ奪われてしまったのである。
 やがて玲子はインディアンの中で暮らし始め、タニオス・マニの妻になったのである。
 彼は逞しく勇敢な男であり、心身ともに玲子を愛した。そして玲子はマニの子供を三人も生んだのだ。慣れない生活は厳しいものだったが、玲子は何とかそれに順応していったのである。

 晴れた日だった。とうもろこしの実を磨り潰しながら、玲子は狩猟に行ったマニの帰りを待っていた。なかなか帰らないマニ。そのときなぜか、前の世界の残してきてしまった夫の事が思い出された。

 ――可愛そうなあの人。突然私を失い、きっと不自由に違いない。あの人は家事が全然できない人だもの。それとももう別のひとを見つけたのかしら? いや、あの人はそんな人でない。今も失踪したあたしを両親と一緒にひたすら待っているに違いない――

 そんなやりきれない慕情が玲子の胸を締め付け苦しめた。

 ああ、このままじゃいけない。でも、もうどうしようもない。

 そんなことを思いながら、陽だまりの中でまどろみ、つい、うとうとと吸い込まれるように寝入ってしまったのだ。

 はっとして目を開けるとそこはやはりインディアンの住まいであり、玲子はもう別世界には旅立ずに済んだのだ。ほっとしたのも束の間。とんでもない事が起こった。本当に突拍子もない出来事である。
 目の前に夫が出現したのだ。それも横になって寝たままの姿である。
 やがて彼は目を擦りながらこう言った。

『ここはいったい何処なんだ? どうして俺はここにいる? あれっ、おまえもしかして玲子か!!』

                         おしまい。
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