スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

続・幻想奇譚 4 宿命 最終話

Posted by 松長良樹 on 02.2011 0 comments 0 trackback
5231448.jpg

 私はこれを読み終えたとき、白痴のように天井を凝視していた。しばらく驚きのあまり、身体を動かすことさえできなかった。恐怖と愛憎のもろ刃の剣を喉元に突き付けられたような、なんとも遣る瀬無い思いが胸に突き上げてきた。が、しかし、私には彼女とこれっきりなんてとても辛く、忍び難いものであった。
 もう一度沙代子をこの胸に抱きたい。そして私は毅然としてこうも思った。 あんな夢の為に死ぬものか、断じてあんな妄想の為に死んでたまるものか。そしてあらゆる方法を講じて彼女を探そうと心に決めたのである。

 しかしあれからかれこれ一年が過ぎたが、彼女はまだ見つからない。心には何か砂を噛むような味気ない思いが巣くうのみである。
 だが、そんな想いとは裏腹に私はついに新人文学賞を受賞したのだ。友人たちが祝福してくれ、私は嬉しさのあまり、気の合う物書き達、それに編集者の人間達と酒を飲んだ。そして酒に酔いしれ思いのたけを語り、文学批評などして随分と遅い時間になってしまった。
 しかし私は誰よりも沙代子におめでとうを言って欲しかったのだ。

 *  *

 そこは私の家の前の国道であった。タクシーから降りて道なりに細い路地を入れば自宅であった。そこで私は頬に何かこう異様な風を感じてふりかえると、国道の反対側に佇んでいる人影を見た。誰かと無意識に目を凝らして、私は眩暈さえ覚えるようであった。
 それは沙代子だったのである。悲しげに俯き、恥じらうように黙ってそこに立っている。

 私はたちどころに事態を了解した。彼女は新人文学賞受賞の件を何かで知ったのだ。そして私のところに帰ってきたのだ。きっとおめでとうが言いたくて戻ってきたのだ。
 ああ、けな気な沙代子! やっぱり彼女は私への未練が立ち切れなかったのだ。

 お帰りなさい沙代子! 私は君が心の底から愛しいのだよ!!

 私の魂は喜びに震え、彼女のところへ思い切り駆け出した。

 国道を渡ろうとした刹那、信じられないような速度でオフロードの大型車が私に突進してきた。夢のように身体が高々と宙に舞った。


 ――沙代子、君はなんでそんな浮かない、蒼い顔をしているんだい?


                         了
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/153-46b2cd8e
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。