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手術

Posted by 松長良樹 on 04.2011 0 comments 0 trackback
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 手術は困難を極めていた。難しい胃癌摘出手術だ。転移の箇所もあり看護師は何度も私の額の汗をハンカチで拭(ぬぐ)った。迅速(じんそく)に作業しなければならない。
 ひたすらに無表情に医師である私は作業をする。長い時間を要したがなんとか手術は無事に終了した。
 私はようやく安堵(あんど)のため息をついた。成功したと思った。私の手はまるで数時間自分の意思を持ったかのように動き、この手術を成功させたのだ。終了と同時にどっと背中に疲労感が圧(の)し掛かった。通常の世界が私に戻ってきたのだ――。

 手術室を出た私だが数歩も歩かないうちにふらっと目眩(めまい)がした。背後からじわじわと得体の知れない魔物が忍び寄るようだった。それは脊髄(せきずい)に氷の柱を差し込まれたような感覚だった。
 私は患者の体内に鉗子(かんし)を忘れてしまっていたのだ。
 なんという恐ろしい過ちだろう。 一刻も早く患者の身体から鉗子を取り出さなけれならない。もし新聞沙汰にでもなったら私はおしまいだ。
 私は誰かに知られてはまずいと思った。私は少し間を置いた。そしてなにくわぬ顔で手術室に戻った。幸い誰もいない。ビニール管だらけの患者はまだ手術台にいた。
 私は大急ぎで患者の腹部の糸を抜き取った。まさぐるように鉗子を探した。しかし不可解な事が起こった。  
 鉗子が無いのだ。どこを探しても鉗子が見当たらないのだ。
 患者の顔を見て私の心臓は縮みあがった。絶壁から奈落の底に叩き落されたようだった。生きた心地すらしない。縮みあがった心臓はそのまま凍り付いて粉々に爆発したようだった。
 私は焦って手術室を間違えていたのだ。
 ――まわりに看護師達の能面のような無言の顔があった。

                          おしまい。
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