能力

Posted by 松長良樹 on 08.2011 0 comments 0 trackback
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「時よ、止まれ!!」
 彼がそう唱えると、時間は見事に静止した。まるでビデオの静止画のように。
 この凄い(馬鹿な)能力に彼は今まで気づかずにいたのだ。それはもう特殊能力あるいは超能力の枠では括れない、神通力とでも呼べるものであった。
 都合がいいことに時間が止まっても彼自身は止まらなかった。彼を除く世界のすべてが一瞬にして氷結してしまうのだ。
 これを解除するには「時よ、動け!!」これで良かった。
 しかしである。楽しい事も出来る反面、これがなかなか歯がゆい能力であった。例えば車の前にボールを追って飛び出してきた可愛い子供が車に轢かれそうになる。
 そこで間一髪「時よ、止まれ!!」と叫んだのはいいが、その後がどうしようもない。子供も車もまるで鋼鉄のように固まっていて、手の施しようがないのだ。善良な心を持つ彼は暫らく、凍ったように考え込んだが、どう考えても名案は浮かばない。
 唯一子供を助けられるとしたら、自由になる彼の身体を車と子供の間に持っていき、「時よ、動け!!」と叫ぶしかない。しかしそれでは自分が死んでしまうだろうし、自分の子でもない者をそこまで庇えはしない。
 そんな訳で彼は実に長く時間を潰した挙句の果てに子供が自分の視界には絶対に入らないところまで行き「時よ、動け」と唱えた。その時の絶望感と罪悪感は本当に途方もないもので暫らく彼は立ちあがれなかった。

 彼はその後味の悪さからその能力を封印した。そして自分が絶対絶命の窮地に立った時にのみ能力を使おうと心に誓ったのである。
 そしてその時は意外に早く、まったくもって早く訪れたのである。
 あるとき巨大な彗星が天空から飛来した。ハルマゲドンである。アブラハムの宗教における世界の終末。そんな映画みたいな悲劇が目の前に起こったのだ。
 刻一刻、近づく彗星、襲い来る天変地異。まさに世界が崩壊しようとしていた。そのとき彼は高らかに言い放った
「時よ、止まれ!!」
 世界が一瞬にして凍りついた。時間が完全に静止したのだ。ところがアクシデントが起こった。まさに悲劇に追い打ちをかけるような尚の悲劇である。元々心臓病を抱えていた彼がそのショックで発作を起こして死んでしまったのである。
 そして世界は凍りついたまま放置された。もはや時間はそれを動かす者を失ったのだ。
 やがて彼はミイラになり塵になって消えてしまった。
 宇宙は今「時よ、動け!!」と言える者をひたすらに待ち続けている。

                             おしまい。
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