アンドロイドの恋

Posted by 松長良樹 on 18.2010 0 comments 0 trackback
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 彼女がどのくらい美しいのかというと、つま先から髪一筋にいたるまで、その全てのバランスは緻密に計算された神のつくられた彫像であるかのように寸分の妥協さえなかった。
 半ば閉じられたその神秘に満ちた瞳。 宇宙の深遠を覗き込むように優雅で印象的な眼差し、咲き誇るバラでさえもその情熱で枯れさせてしまいそうな唇。
 柔軟な肢体はまるで流れるようにしなやかな美に溢れていた。

 博士はアンドロイドのイーシャの手を握って目を潤ませた。彼女は博士のつくり上げた究極の稀有のアンドロイドであった。博士は自分の持てる全能力を駆使して彼女を作ったのだ。わが身を削るような努力の末にである。
 博士は若き日に病気で死んでしまった若い恋人イーシャをどうしても忘れられなかったのだ。だから博士は彼女に似せて、いや全く彼女同様のアンドロイドを創作したのだ。
 あれ以来ほかの女などに一度たりとも心を動かすことなどなかった。そして心に在りし日の彼女を思い浮かべながら、あらゆる困難を克服して彼女を作り上げたのだ。彼女の為に……。そうだ愛するイーシャの為にである。

 しかし残念なことに博士の寿命は今にも尽きようとしていた。顔の深いしわは途方もない年輪を刻み、皮膚は萎び、髪の毛は抜け落ちていた。博士はイーシャを一人にしたくはなかった。というよりまだ死にたくはなかったのだ。
 彼女をつくりあげてすぐにこの世を去るほど、冷たく醒めた感情を持ち合わせていなかったのだ。心の中には情念の炎が昔と変わらぬままメラメラと燃えていたのだ。
 博士は彼女といつまでも一緒に居られることはできないものかと考えた。そして自分もアンドロイドになる事をついに決心した。そして最後の力を振り絞った。
 助手たちの力をかりて博士は精巧な男性のアンドロイドをつくり、自分の脳をそのアンドロイドに移したのである。
 長い作業が終了し、博士は生まれ変わった。若い体を手にしたのだ。
 博士はイーシャの手を握り溢れる想いを彼女に伝えた。
「ああ、最愛のイーシャ。ずっと君を愛していたよ。ぼくらはこれからもずっと、ずっと一緒だよ」
 しかし、しばらく考え込むようにしてイーシャはこう言った。
「あなたはいったい誰? あなたなんか嫌い……」

                            おしまい。

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