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ほんの少しばかりの危険

Posted by 松長良樹 on 10.2011 0 comments 0 trackback
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 張間博士がタイムマシンの前に立って言った。白髪の見るからに聡明そうな紳士である。
「私はついにタイムマシンをここにつくり上げました。今日はみなさんに実験をご覧に入れましょう」
 ホールのステージ中央に博士がいて、会場には、学者、科学者、医師、政治家、報道記者、各界の著名人が集まっていた。いわゆる関係者と招待された諸君である。
 タイムマシンと称する機械は意外にもテーブルの形をしていた。
「いいですか、ここに私は今りんごを置きます。そして3分後の世界にこのりんごを送ります。見ていてください」
 そういって赤いりんごを一つ張間博士はテーブルに置いた。ギャラリーが実に興味深そうな顔で見守っている。テーブル横のスイッチを操作すると、りんごは消えてなくなった。そしてギャラリーが固唾をのんで見守る中、きっかり3分後にりんごはテーブルの上に出現した。
 感嘆と拍手が巻き起こった。歴史的なシーンである……。
「どうですみなさん、まるでマジックのようでしょう。しかしこれはトリックではありません。まあトリックとはどのような定義付けがされているか私は知りませんが。今度はもう少し工夫を凝らしてみましょうか」
 博士はそう言うと軽くりんごに触れてから、再びテーブル横のスイッチを操作すると、りんごは消えてしまった。
「今度も同じようにりんごを3分後に送りました。しかし面白い事をやってみましょう」
 博士はそう言ってポケットから果物ナイフを取り出し、消えたりんごの辺りにそれを持っていった。ちょうど3分後にナイフの刺さったりんごがそこに出現した。
 ギャラリーに、どよめきが起こった。博士がナイフの柄をもってりんごを持ち上げて見せた。真面目な微笑を湛えている。
「いいですか、りんごは3分後のこの空間にナイフがあったとしても、それを拒否できないのですよ。固定された時空にのみこのりんごは存在している」
 ギャラリーが互いに顔を診見合わせて言葉を交わしている。会場が騒然となって様々な憶測が飛び交い始めたのだ。その時ジャーナリストの一人が博士に手をあげた。
「博士、ちょっとよろしいでしょうか」
「ええ、なんなりとどうぞ」
「今度はそのりんごを3分過去に送ったらどうなるのですか?」
「そうくると思いましたよ」
 博士はナイフの刺さったままのりんごをテーブルに再びのせて微笑んだ。
「もちろん可能ですが、それをすると少しばかりの危険を伴う可能性があります」
「どういう意味です?」
「このりんごは3分前にはこのテーブルに置かれていましたよねえ」
「は、はい」
「という事は3分前に既にあったりんごと、今から過去に送るこのりんごとがぶつかってしまう」
「……なるほど、でどうなるのです?」
「過去の宇宙の質量が変わると言う事になるのですか……。 実はこれは今まで誰もやったことがない冒険なのです。これはやってみなければわからない」
 博士はりんごを撫でてからテーブル横のスイッチを操作した。するとふっとりんごは消えた。

 ――途端に世界が消滅した。

                    おしまい。
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