スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

大きな望遠鏡

Posted by 松長良樹 on 13.2011 0 comments 0 trackback
5214_convert_20110313214609.jpg

「だから、何が見えたというのですか?」
 その質問に張間博士は黙して答えなかった。
「どうしても世間に成果を発表出来ないとおっしゃるのですか?」
 研究開発局の局長は真剣な顔をして博士に質問した。研究所の一室。もう陽が傾きかけている。研究所は小高い山の頂上付近にあった。空に近く大気の澄んだ場所だ。
「――まあ、その。うーん」
 博士がゆっくりと腕を組んだ。困った表情だ。
「博士、あなたには説明義務があるのですよ。膨大な予算を投じられた最新鋭の望遠鏡はあなた個人のものではない。国民の税金が使われているのですよ」
「重々に分かっております」
「ではなぜ―― 博士。あなたは確かハッブル宇宙望遠鏡など過去の遺物でしかない。とおっしゃいましたね」
 局長が腑に落ちないという顔をした。神経質そうな細い眼が尚一層細くなった。
「はい。言いました」
「本当は博士。予算だけ使ってハッブル宇宙望遠鏡には、到底及ばないお粗末な望遠鏡をお作りになったのではないでしょうね?」
「断じてそんな事はありません。それどころかあの望遠鏡を使えば、見えすぎる程見えるのですよ。宇宙の彼方まで… 深淵な宇宙の神秘をあの望遠鏡は我々に語りかけてくるのですよ」
「それはどういう意味ですか。博士説明してもらいましょう」
 張間博士が眼を静かに閉じた。まるで瞑想でもしているかのようだった。
 シルバーグレーの美しい髪が大きな窓から差し込む月明かりを反射して輝いて見えた。
 博士は迷っているようだったが、やがて決心の表情が顔に表れた。
「では局長。あなたに実際に見てもらって、私がなぜ世間に発表出来ないと思うのか、判断していただきましょう」
 二人は部屋を出て展望デッキまで高速エレベーターを使って昇った。
 そこには巨大な架台に固定された大きな望遠鏡が設置されている。博士がハンドルを回して、のぞき口を局長の目の前に持ってきた。
「さあ、どうぞご覧下さい」
 局長が恐る恐る望遠鏡を覗き込む。
「な、なんか変なものが見えますよ……」
 局長が不思議そうな表情で博士を振り返る。
「いいから、もっとよくご覧になってください」
「――これは目ですね、目玉が見えます。」
「それは、局長ご自身の目玉ですよ」
「目玉って、いったいどういう事ですか… これは?」
「――この望遠鏡は宇宙の彼方を見据えています。宇宙の彼方とは局長。この場所なんですよ」
「どういう意味だか、私にはよく分かりませんが……」
「……」
 局長は暫らく沈黙していたが、やがて口を開いた。夢遊病者のような表情だ。
「この事は内密に致しましょう」
 局長がは囁くような口調になった。
「博士。今一度程々に見える望遠鏡をおつくりいただけませんか……」
「はい。望遠鏡の精度を落とすのは簡単な事です」
 博士が微かな溜め息とともに言った。陽が沈み、いつの間にかドームの上に満天の星空が広がっていた……。



          ――長い間、深淵を覗き込んでいると、
            深淵もまた、君を覗き込む。

                         ニーチェ

                          おしまい。
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/161-2ae3e3e0
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。