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親殺しのパラドックス

Posted by 松長良樹 on 15.2011 0 comments 0 trackback
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 私は父を恨んでいた。なので殺すことにした。だがそれは現時点での話ではない。
 私の生まれる以前の過去に戻って父を殺すのだ。なぜそんなことをするのか? 立派な動機が二つある。一つは母を虐待し、ついには死に至らしめた父への復讐であり、一つは私の発明したタイムマシンを使って自分の親を殺したら自分はどうなるのか確かめる為だ。
 私は復讐と時の研究に人生を捧げてきた。だからどうしても有名なパラドックスの実証をしたくなったのだ。一石二鳥という意味合いも含めて。
 私は父の為に荒んだ不毛の人生を歩んできた。だから実験の結果、私がたとえ消えてしまったとしても少しも後悔はない。
 マシンは正四角柱の半透明の立体で私はマシンに乗り込んでスイッチを入れた。
 時代は私が生まれる一年ほど前で、このころ母は父と知り合ったらしいのだ。辺りを見回すとそこはネオン街であった。私は幼い私を抱えた母を叩き出して、他の女に走った父を絶対に許せないし、母が悲惨な目に遭わないうちに父を抹殺するつもりだ。
 私はネオン街を暫らくさまよい、吸い込まれるようにある酒場に入った。何かを直感的に感じ取ったのだ。その途端に酒に酔った男の罵声が響いてきた。
「てめえ、ぶっ殺してやる!!」
 凄まじい声で叫ぶ若い男が目の前にいた。瞬時にその男が父だと私には判った。やはり、父は若いころからこんなどうしようもない男だったのか! 粗野で無分別そうな双眼が荒々しく燃え立っている。私は救いようのない絶望感に打ちひしがれた。私が密かに心に秘めていた父への微かな慕情が木端微塵に吹き飛んでしまった。
 罵声を浴びている相手は同じく若者だが、おとなしそうな男でひ弱そうに見えた。父は手にナイフを握りしめている。そして男は震えていた。
 私は言いようのない激しい憤りを覚えた。計画的に大口径の銃を持参してきたので、私は何の躊躇も容赦もなく鉛の弾を父の頭に撃ちこんだ。
 もんどりうって父がその場に倒れた。即死であったろう。私は一瞬恐怖したが、私は死にも消えもしなかった。親殺しのパラドックスなど存在しなかったのだ。過去の親の死は私には何の関係もなかったのだ。
 が、しかし、思っても見ないことが起こった。若者が発狂するほどの大声を出して私に襲いかかってきたのだ。しかも怯えた瞳のままで。
「この、人殺しーーーっ!!」
 私にはもちろん何の恨みもないその男を殺す気などなかったのだが、反射的に銃の引き金を引いてしまった。男が腹を押さえて倒れた。
 私は少し慌てたが、マシンで元の世界に帰れば済むと自分に言い聞かせた。しかし、すぐに私は自分の身体の異変に気づいた。脚の方から私の身体は徐々に透けていき、ふっと消えた。
 すべてを理解するのとまったく同時に……。

                        おしまい。










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