占いの名人

Posted by 松長良樹 on 17.2011 0 comments 0 trackback
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 ――いつものように私は街角に座っていた。
 台の上に紫の布が敷かれその上に筮竹が立っている。
 私はベテランの易者である。私ほどになると永年様々な人間を観察してきたので、おおよそ相手がどんな事で悩んでいるのか予測できてしまう。
 それにしても現代の人間たちは如何に多くのストレスに晒されているのだろう……。
 会社での人間関係の悩み、仕事上の悩み、はたまた三角関係の悩み、健康上の悩み、人の悩みが尽きない限り、私の客もまた絶えないのである。
 その時、目前を妙に気落ちしたような顔をした青年が通りがかった。私は絶妙のタイミングで声をかける。
 落ちついたいかにも易者らしい声音でなければならない。易者にはそれらしさが大事なのだ。
「なにかを悩んでおられるようですな、よろしかったらみて差し上げましょう」
 青年が無言で立ち止まった。
「……」
「恋の悩みとお見受けいたしました」
 私は静かにしかもしっかりとした口調でそう言った。
「よくおわかりですね。さすが易者さんだ」
「まあ、お座りなさい。くわしくお伺いしましょう」
「実は…」
 青年がちょっと口ごもった。
「大丈夫です。易者は人様の秘密は絶対に他に洩らしたりしません」
「実は僕は今すごく迷っているのです。僕に結婚をせがむ女性が二人いるのです」
「ほう、それはおもてになられて結構なことではないですか」
 私は軽く微笑んで見せた。
「いや、笑い事ではないのです。親からもそろそろ身を固めろといわれておりまして」
「ご自分で決められないのですか?」
「はあ、それが二人とも凄く美人な上、教養も品格もあり、やさしさもあり、苦しいほどに悩んでしまうのです」
「ほう」
「実は僕の父が実業家でして少しばかりのお金があるもので、財産目当てでない女と一緒になりたいのです。誠実な女と……」
「なるほど」
「しかし、僕には二人の本心まで見通せないのです。なのであなたに占っていただこうかと」
「わかりました。お任せください。お二人の生年月日をお伺いできますか?」
「はい。よろしくお願いします」

 私は真剣に占い青年にはA子のほうを薦めておいた。
 これでたぶんA子と青年は結婚するはずだ。

 しばらくしてA子が私の前に現れて、心配そうに尋ねてきた。
「どうですか、彼は来ましたか?」
 私は笑顔で自信たっぷりに答える。
「大丈夫です。あなたを強く薦めておいたから、彼はきっとあなたを選びますよ」
「そうなったら、お礼もはずませてもらいますわ」
 彼女は感謝の表情をして前金で十万を置いていった。残りは結婚が決まったときにはいただくことになっている。
 
 えっ? もし青年がB子のほうと一緒になったらどうするのかって。
 大丈夫、私はB子からも同じように頼まれているから、A子にお金を返して、B子からお礼をいただくだけです……。


                            おしまい。





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