神は死んだ

Posted by 松長良樹 on 23.2011 0 comments 0 trackback
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 これは昔、昔、遠い昔。まだ神様というものが本当にいらした頃の物語です。

 遥か南方に素晴らしい文明を誇った国がありました。気候は一年中温暖で土地は肥え、その上、国王は善良で優れた統治者でありました。国の中に争い事も無く、人々は毎日仕事に精を出し、国は益々繁栄を遂げるかのように輝いていました。
 しかし、ただ一つだけ困った事がありました。それはこの国を造った、いや、人間までもおつくりになった神様が現実においでになられる事でした。
 神様は国の中央の大きな山の頂に住み、自分勝手な要求をいつも王に突きつけるのでした。山の麓(ふもと)には大きな祭壇があり、毎年一回神様は王に貢物(みつぎもの)を要求しました。
 贅沢なご馳走と一人の生娘(きむすめ)が神様の要求でした。勿論娘の親達は嘆き悲しみましたが、王の命令では仕方がありません。
 そして娘達は二度と戻っては来ませんでした。
 心の優しい王は、何度も神様に娘を貢物に取るのだけは止めて欲しいと頼みましたが、神様は怒り、巨大な旋風(つむじかぜ)を起こして家々を吹き飛ばしたり、大津波で人々を海の底へと引きずり込んだりしました。
 そして神様はこう言うのです。
「そもそも、この国が平和に発展できるのは誰のおかげなんじゃ? みんなわしのおかげなんじゃ。昨年は旱魃(かんばつ)になりそうじゃった。それをわしが雲を呼び雨を降らして旱魃を防いだのじゃ。その前の年は野蛮な海賊みたいな人種が、この国を占領しようと攻めて来た。わしは大津波で奴らの船を一隻残らず沈めてやったのじゃ。わしあっての国じゃ、忘れるな。だから美味いものを出すのも、生娘を差し出すのも当たり前のことなんじゃ。最近は貢物の味が落ちておるぞ。娘も美人に限るぞ。さもないと民が苦しむ事になるぞ」
 その年は大地震が起こり大勢の人々が死にました。理由は貢物がまずかったという、それだけの事でした。そして神様は年一回の貢物を年二回にすると言い出したのです。王は嘆き神様の正体は実は悪魔なのかと疑いもしました。
 そんな時その青年は現れました。見るからに利発そうで凛々しい顔立ちの青年でした。 神様と貢物の関係を良く知る青年はこう王に言いました。
「生娘やご馳走を出すのは馬鹿げている。もうこんな事をするのは止めましょう。どうか僕に任せてください。そうすればもうこんな事をせずに済みます」
 青年の口調は熱心で誠意さえこもっていました。それに日頃の青年の勤勉さ、真面目さを知る王は思い切って青年に任せてみようと思いました。
「いいですか、王様とびきりのご馳走を用意してください。これまでで一番のご馳走です。でも娘はいいです。誰一人娘さんを差し出す必要はありません」
 王は言われた通りの事をしました。広く世界中の食材を集め、最高の料理を作らせました。
 ある日青年は祭壇にご馳走を祀(まつり)りました。そして神様が来るのを待ちました。やがて神様がやって来るとこう言いました。
「神様、今回の貢物は古今東西で一番のご馳走です。ゆっくりとお召し上がりください」
 神様はあまりのご馳走のおいしさに舌鼓を打ち、残らず平らげました。
 「ところで生娘はどうした?」
と神様が訊くと青年は答えました。
「まことに申し訳ありません。明日までに必ず連れて来ます」
そう約束しました。
 翌日青年は王のところにやって来て言いました。
「王様。もう二度と貢物は必要ありません。生娘も差し出さなくていいんです」
 王は不思議そうに青年に尋ねました。
「どうしてだい? 君が神様を説得したとでも言うのかい」
 青年が答えます。
「あのご馳走の中には牛百頭は殺せる猛毒を入れておきました。いくら神様でも、もうお亡くなりになったのです」
 青年は神様の遺体を王に見せました。王は暫らく蒼い顔をして絶句していましたが、
 本当に神様が死んだとわかると安心したような顔をしました。
「王様これからは私達の手によってこの国を良くして行きましょう」
 青年が言うと王がにっこり笑いました。そして王様と青年は握手をしたのです。
 それを王の家臣が怪訝(けげん)な顔で見ていました。そしてこう言ったのです。

「神様にはお子様が沢山いらっしゃいますよ…」


                      おしまい。
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