電車の怪

Posted by 松長良樹 on 01.2011 0 comments 0 trackback
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 ――通勤時間の出来事だった。
 僕はいつものように満員電車に乗ろうとして目を見張った。どうしてかというと、まったく見たこともない風景がそこに展開していたからだ。その車両は珍しく満員ではなかった。空いていたといっていい。
 でもその空き方がもの凄く変なのだ。車両の片側にしか乗客がいない。進行方向に向かって左側の座席にしか人がいないのだ。しかも立っている人は一人もいない。つまり僕がいつも乗る車両には三人掛けの座席が前後二つ、真ん中に七人掛けの座席が三つある。したがって二十七人の乗客が乗車していて、その人たちがじっと僕を見ている。
 もっと変なのは駅での乗客が僕一人しかいなかったという不可思議である。小さな駅で乗る人は少ないのだが、それにしてもおかしい。
 異様であった。何かあったのだろうか、席に何かあってそれで誰も座らないのだろうか?
 それとも、なにか別の理由なのだろうか? 一瞬広々と空いた右側の席に座ろうとしたが、乗客たちの異様な、僕の挙動に異常なほど興味のありそうな視線が僕を席に座らせなかった。仕方なく、僕は立ったまま左側の吊革をつかんだ。
 この人たちは何か特別の人なのだろうか? 僕なりに彼らを観察したが、別段普段と変わらない。いつもの会社員やら学生やらおばさんやらが乗っている。でもなんで、右側の座席が空いているんだ。どうして誰も座らないんだ!
 心の内側に冷たい汗が滲むようであった。いろんなことを想像して僕の頭の中は混乱した。
 何の理由もなくこんな変な事が起こるわけがない。僕は思った。そして僕は次の駅で電車が止まったときどうなるのだろうと想像した。次の駅は大きな駅だから乗客が大勢乗るはずだ。その時この車両はどうなるのだろう?

 ものすごく長い時間が経過してやっと電車は次の駅に停車した。僕は固唾をのんで状況を見守ったが、どっと人が乗って来ていつもの満員電車と化した。

 僕は安心した反面、立っていたことを後悔した……。

                            おしまい。
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