スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

真相

Posted by 松長良樹 on 08.2011 0 comments 0 trackback
kmnnnnn444_convert_20100415140342_convert_20110408220112.jpg

 ――すべてが偽りであったという結末の夢をみた。
 会社も、家族も、街も、この大都会東京自体が実はすべて偽りの記憶であったという実にばかげた夢をみた。俺が本当はロボットで実験室で他人の記憶を脳に埋め込まれていたという、なんとも悲しく痛ましい夢を見た。
 俺は極めて現実的に生きてきたつもりだ。 なのにどういうわけかその夢が心に引っかかったまま整理できないのだ……。
 俺はいつものように朝起きていつものように会社に向かう。
 見慣れた風景を横目で眺めるうちに得体の知れない感覚が襲い掛かってくる。最近どうも変なのだ。なんというか大きすぎる靴をはいて歩くような 妙な違和感が俺に付き纏っている。
 どう表現したらよいのだろう、たとえば四歳の息子の無邪気な笑みにさえ、とんでもない何かが隠されていそうな、そんな猜疑心を覚えるのだ。それにやっている事のすべてが無意味なような倦怠感。筆舌に尽くしがたい味気ないこの気持ちはいったいどこからくるのだろう。
 俺は極度に疲れているのだろうか、それとも既に病気なのだろうか、それも性質の良くない神経系の病なのだろうか。

 本音を言うと、もういいかげん会社の仕事にはうんざりしている。俺の上司は人を奴隷のようにこき使い休養だってろくに与えてはくれない。
 だから最近体重は十キロ近くも落ち、顔だって頬がこけて見られたものじゃない。 目の下に隈さえできている始末だ。人を何だと思っているのだ。
 たまに残業をして昼間できなかった仕事をしようとすると、上司は残業する奴は無能力者だと罵倒する。容赦もなくおまえの仕事など俺がやれば半日程度で片付くのだと俺を蔑むのだ。まったく冷酷な上司だ。
 
 そして秘密を明かすと俺は会社の事務の女の子と浮気している。もう不倫して二年経つが最近妻と別れてくれと女が言い出し、俺はまいっているのだ。俺にすればほんの遊びが今では手のつけられない状況にまで発展しているのだ。
 それにしてもこの気分の悪さはどうであろう、俺はまるで絶望と歓喜とを履き違えてしまったような途方もない違和感に災なまれている。

 最悪の気分のまま会社に辿り着きデスクに着いた。すぐに顧客に電話をしなければならない。そして訪問のアポをとりつけ商談をうまく運ばなければならない。でないとあのうるさい上司に怒鳴られる羽目になる。
 しかし、どういう訳か上司が俺に大事な話があるので今日は客のところに行かないで応接室で待てという。俺は体調不良だったし、なにか厳重に注意されるか、知らない間に重大なミスでも犯していたのかとか、そんな風に悲観的に考えて上司を待った。
 しばらくすると応接室のドアが開き、上司が入ってきた。だけではない。続いて浮気相手の事務員も女房も四歳の息子も、それに複数の同僚までもが一緒に部屋に入ってきたのだ。普段俺が顔をあわす連中である。
 何が始まるのかと思った。とてつもなく嫌な予感がして俺はもう気が気ではなかった。

 上司は俺の正面に静かに座り意外なほど穏やかにこう切り出した。
「もう終了だ。終わりにしましょう。お疲れ様でした」
 俺はてっきり解雇かと思ったが、想像を絶する言葉がその後に続いた。
「君は最近様子がおかしくなった。顔色も悪いし、もう実験観察も限界だと判断された」
「――」
「君は薄々、気づき始めていたんだろう。ここが本当はどこか、我々が何者か」
「どういう意味ですか」
 俺はほとんど思考停止の状態のままそう言った。
「ここは地球ではないのだ。君からしたら異世界だ。君は数ヶ月前に地球からこの星に……  言わば浚われて来たのだよ」
「な、なにを言っているんですか、そんなばかな」
「我々は君を観察する為に君を取り巻く地球の環境を正確に再現した。そして上司であるこの俺も奥さんも事務員もすべて我々が演じた」
「からかっているのですか、いったい皆でそんな悪い冗談を言ってそれのどこが楽しいのですか、おかしいですよ」
 俺は真っ青な顔をしていたに違いない。
「そんなおとぎ話を誰が信じるのですか。だいいちそんな記憶は僕にはない。子供だって信じやしませんよ」
 開いた口がふさがらない。俺は少し興奮気味に立ち上がった。
 すると仕方がないという顔をして、上司が顔の皮でも剥ぐように顎の肉を持ち上げて見せた。そこにはまぎれもない異星人の顔が現れた。
 心臓を抉られたような気持ちがした。
 そのとき初めて俺はやはりそうだったかと思った。違和感の原因が解明されたような気がした。ぼやけた焦点がぴったりと重なったのだ。しかしどうしようもない恐怖に俺は半狂乱になった。
「これは人間の特性というものを究明したい我々の試みだったのだよ。我々には人間の精神構造がよく解らないのだ。悪く思わないで欲しい。しかしもう終了だ。終わったのだよ……。 安心してほしい君を無事に地球に変えそうじゃないか」
 しかし俺は狂ったように笑い続けた。それは自分でも驚くほどの異様で暗い笑いだった。俺は立ち上がり、彼らを睨みつけた。全身が小刻みに震えて治まらない。
 俺は大声で奴らに怒鳴った。
「こんな実験は失敗だ! 残念ながら実験は大失敗だな!」
 おののく彼らに俺は言葉を浴びせかけるように言い放った。
「おあいにくだが、俺は人間じゃない!」
 俺は人間の仮面を勢いよく床にたたきつけた……。


                            おしまい。
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/181-0d1713eb
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。