スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

魔術

Posted by 松長良樹 on 17.2011 0 comments 0 trackback
521300_convert_20110417185310.jpg

 この試験に合格しないと父がどんな顔をするか平野秀雄には予想がついていた。しかし今となるとろくに勉強もしないで遊んでばかりいた自分が恨めしかった。父は優秀な教授で常にその眼は神経質な輝きを持って秀雄を睨んでいたし、代々学者や弁護士ばかりの家系は傑出した人間を常に望んでいたのだ。
 とにかくそんな訳でこの受験に失敗したらどうなるのか、痛いほど秀雄にはわかっていた。しかし答案用紙は白紙のまま、いつになってもそのままなのだ。
 そこで秀雄は神にも縋る思いで魔法の書をポケットから取り出した。コンパクトサイズの可愛さであったが、それは秀雄が古本や奇本集めの道楽の中で偶然、奇跡的に手に入れた魔術の書だったのである。
 彼はまず両目を閉じた。そして試験管に気づかれないように慎重にヘブライ語の呪文を小声で口ずさんだ。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム…… ハムイネス、イシス」
 その声を偶然に聞いてしまった学生がいた。
「やあ、秀雄じゃない?」
 そう囁いたのは、小学生の同級生の春夫だった。
「驚いた。君、飯島だよな、飯島春夫」
 秀雄は驚きながらも声に気をつけてそう言った。
「そうだよ、いやあ驚きだね。君はたしか平野だよなあ」
「そうだ、懐かしいなあ」
「ああ、しかし奇遇だね」
「で、問題できそう?」
「全然だめだ」
 春夫が沈んだ声で言った。
「ほんとう?」
「ああ、正直だめだ」
「じゃあ、秘密の合格方を君に教えるよ」
 心優しい秀雄はそう言って、一部始終を彼に話した。合格には魔術でも使う外はないという実に真実味に欠ける夢のような話だ。
「いいかい僕がエロイムエッサイムと唱えたら、君もそれを二回唱え、口に出さなくてもいいから試験の合格を強く心に念じるんだ」
「わかった、俺もやってみるよ」
 幾分覚めた目で春夫が頷いた。
「エロイムエッサイム…… ハムイネス…」

 *  *

 合格者の発表時、秀雄と春夫は途方にくれながら大学の掲示板を探していた。
 大学のある場所に大学が存在しないのだ。
「どういうことだこれは……」
 頭をかかえて秀雄がそう言うと、春夫がいかにも申し訳なさそうな声でこう言った。
「君の魔術は本物だったんだね。悪いが俺はそれを信じられなかった。だから俺はあんな大学消えてなくなってしまえって念じたのさ……」

                      おしまい。


スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/188-a3eaa7b9
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。