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仕組まれた未来

Posted by 松長良樹 on 23.2011 0 comments 0 trackback
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 張間博士は長年の研究の末、ついにタイムマシンを完成させた。というより、正確に言えば時空連鎖帯の発見こそが重大で、そのループする管状の時間軸を素粒子と共に自由に移動できる乗り物は意外に簡単に出来上がった。
 この偉大なる発明が後世にどれほどの影響を与えるか計り知れない。いや、もうこの時点で過去さえ変更可能なのだ。少なくとも博士はこう考えていた。
 博士は今まで全く世間に受け入れられず、ただの頭の可笑しな、悲しい、うだつの上がらない変人でしかなかった。
 なぜなら、それまでにロマン主義の夢想家たちが、時間旅行の物語を数多く創作してきたがそれは単なるノスタルジーでしかなく、背理法によってそのことごとくが否定されてきたからだ。
 たとえばもしタイムマシンが未来に存在するのなら、なぜ我々は今まで一度も未来人に出くわさないのか? またタイムマシンのスイッチは過去に戻ったと同時にリセットされてスイッチボタンは決して押されないはずだ。とか、多数……。 唯一可能なのはウラシマ効果やコールドスリープを通しての時間旅行であった。

 しかし今後は事情が違う。博士がこのマシンを完成させたからには世間を見返せるのだ。この偉大な研究成果を学会も世間も認めないわけにはいかないだろう。

 張間博士は自分がノーベル物理学賞を押しいただく輝かしい未来を想像した。
 そしてその光景をちょっとだけ見たいと考えたのだ。ちょうどそれは美味しそうなデコレーションケーキを目の前にして、小指でほんの少し生クリームの味見をしてみたい衝動に似ていた。博士は躊躇もせず、まるで何かつかれたようにタイムマシンに乗り込み、おおよそ一か月後に目盛りを合わせてスイッチを押した。
 博士が幾分の眩暈を我慢して未来に降り立つと、部屋の様子は殆んど変わってはいなかった。ただ、大きな声で怒鳴る声が研究室の窓から飛び込んできたので何事かと思い、顔を出して見ると、街頭でのっぽの男が声を張り上げながら通行人にチラシのような物を配っている。
 変な胸騒ぎを覚えた博士がそこに行きそれを手に取ると、それは号外で『張間博士死す』という記事が一面に踊っていた。
 食い入るように目を凝らし、記事の詳細を読むと『10月30日午前8時ごろ張間博士は世紀の珍発明タイムマシン搭乗中、爆死する』とある。


 しばらく呆然と考え込んでしまった張間博士であったが、自分がもう死んでしまったなどとは受け入れ難い事態だった。そしてまたこの文面が博士をおおいに憤慨させた。
 今世紀最大の発明を珍とはどういう事だ。タイムマシンを馬鹿にするにも程がある。
 まあ、それはまだいいとしてノーベル賞はどうなるんだ。自分が死んだら受賞の夢は消えてしまう。博士は悲しい思いに囚われた。どうしたらよいのか。
 マシンを起動させたのは9月30日のことだ。そして博士が爆死するのは10月30日午前8時ごろとある。それならば爆発の前日あたりに戻り、爆発の原因を徹底的に調べ、事故を未然に防げばいい。それしかないだろう。
 張間博士は急いで現在時刻を確認すると10月30日午後5時である。
「私には運命さえ変更可能なのだ!」
 博士はそう叫んで直ちにマシンに乗り込んで起動スイッチを入れた。目的の時空連鎖帯は10月29日。眩暈がして一瞬意識が霞む。その時である。マシンの内部にキーンという不吉な音がこだました。それは博士自身が備え付けたマシンの異常警報であった。
 なにがなんだかわからず動転する張間博士。気がつけば心臓部の光子エンジンに亀裂が入り、見る見る広がっていく。危険を察知して博士はマシンを止めようとしたが、時空連鎖帯は軋んだ恐竜の叫びに似た悲鳴を上げ、完全にマシンが静止したのが10月30日午前8時2分。そしてマシンは光に包まれた。

  *   *

 大きな声で怒鳴る声が窓から飛び込んできた。博士婦人は何事かと思い、研究室の窓から顔を出して見ると、街頭でのっぽの男が声を張り上げながら通行人にチラシのような物を配っている。変な胸騒ぎを覚えた婦人がそこに行きそれを手に取って言葉を失った。
 それは号外で『張間博士死す』という記事が一面に大きく踊っていた……。

                    The end

 ――博士の研究はこうして闇に葬られたが、誰も未来からやってこないのを見ると、きっと彼を超える研究家は未だに現れないのだろう。

                        
         以前のものを書き直しました。


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