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幸福

Posted by 松長良樹 on 24.2011 0 comments 0 trackback
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 ――至極普通の男だった。
 特に裕福でも貧乏でもなかったが、男は何か心の中に物足りなさを抱えていた。
 個人の幸福の追求の為に俺の人生はあるんじゃなかったっけ? 
 ある時彼は取り止めもなくそう思った。今の俺ときたら会社の為、家族の為に一生懸命仕事をし、個人の楽しみなんて日曜日にごろ寝するぐらいで、ほとんど何もないじゃないか。
 社会のルールに縛られ、夢を諦め、這いつくばるように生きて、酒の席で世の中の愚痴を言う。おお、なんと窮屈な人生なんだ。たまには大金でも使って遊びたいもんだ。

 そして男は家の神棚にむかってこう言った。

「神様! 私の願いをお聞きくださいませんか」
 するとそこに神様が現れた。と言っても男にはとてもそこに現れた者が神様だとは思えなかった。ぼさぼさ頭に長い髭、白装束を纏ったおじいさんだ。
「わしゃ神様じゃ」
 とぼけた声で神様が言った。
「あなた、神様?」
 男が当ての外れたような顔をした。
「ああ、わしゃ神様じゃ」
 神様が答えた。男は首を傾げながらも願いを言い放った。
「私は個人の幸福を追求したいんです。私は幸せをもっと味わいたい」
 男が願いを言うと神様はすんなりと
「いいですよ」
 と答えた。

   *  *

 気がつけば砂漠だった。広大な砂漠だ。男は日がじりじり照りつける砂の中を汗だくで彷徨い歩いていた。すぐに喉が渇いた。渇いて渇いて気が遠くなりそうになった。これのどこが幸せなのかと思った。男は胡散臭い神様に騙されたのだと思った。
 するとそこにテーブルが出現した。つづいてその上にコップ一杯の冷えた水が現れた。思わず手を伸ばそうとすると、傍に同じ境遇にいたと思われる小さな女の子に気がついた。
 男はぐっと我慢をして女の子に水を与えた。女の子が嬉しそうに笑った。男もなんだか嬉しくなった。しかし喉はからからだった。

 するとまたコップ一杯の水が出てきた。男は夢中で水を飲み干した。実においしい一杯であった。救われたようで涙さえ出てきた。

 そこに神様が現れた。
「危うく死ぬところでしたよ」
 男がやや不満そうに言うと神様がゆるく笑ってこう言った。
「あなたは今、幸せの渦中にいたんじゃよ」
「とてもこれが幸せとは私には思えない」
 男が言うと神様が付け加えた。
「幸せに過剰な期待をしてはいけませんぞ。幸せなんてものは所詮、心の持ち方一つ……」
 神様は口を押さえてそれ以上何も語らなかった。
「神様……」
 ――神様は、その場でふっと消えた。

                   おしまい。

                      


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