橋の上で

Posted by 松長良樹 on 21.2010 0 comments 0 trackback
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 ――その青年は思いつめた表情をして橋の上に立った。峡谷にかかる鉄橋の下は身が竦むほどの眺めである。青年はひどく落ち込んだ様子で橋の欄干に足をかけた。
 ちょうどそこに分別のありそうな老人が通りかかった。
「お若いのお止めなさい!」
 老人はそう言って青年を呼び止めた。かなり大きな声だったので青年の決心が鈍った。
「命を無碍にしてはいかん! 訳を話しなさい。訳を…」
「――」
 沈み込んだ青年の顔。
「その顔は失恋でもしたのかい?」
 青年はおもむろに頷いた。
「ほう、そうか。辛いであろう、苦しいであろう。さぞ相手は美しい女なのであろうな、わしも昔とても気立てが良く、上品で見目麗しい女に恋をした事がある。しかしなあ相手はわしをさておき別の男と一緒になってしまったのじゃ、あの時は死ぬほど辛かったぞ。しかし、わしは耐えた。相手を恨まず耐え忍んだのじゃ、わかるかのう」
「――」
「女など、星の数ほどいると思いなされ、時間がやがてあんたの心を癒してくれるじゃろう、だから女のことは忘れるのじゃ、忘れてしまいなさい」
「――」
 青年の顔は冴えない。
「いいかな。女など…、女なんて」
 青年が泣きそうな顔で老人の言葉を遮って言った。
「僕が好きになったのは男ですよ! 体育の先生なんです」
「うっ!」
 直後に青年の姿は橋の上から消えた……。

                       おしまい。
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