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愛しき君を食す 3

Posted by 松長良樹 on 31.2011 0 comments 0 trackback
 そしてすぐに私たちは交渉をもったのです。私は内心の嬉しさを我慢して表には出さないようにしていました。社長の愛人になれればお金には不自由しないと思ったのです。結婚は無理だとしてもマンションの一つぐらいは可能かもしれない。単純な私はそう思ったのです。 また、いやらしい目で彼を見る他の女子社員の鼻を明かしてやったような優越感にさえ浸りました。
 ところが彼はそれから一年もたたないうちに私にプロポーズしてくれたのです。
 天にも昇る心地でした。もちろん彼も私も独身でしたし母はもう涙を流して祝福してくれました。ああ、あこがれの社長夫人にこの私がなれたのです。母からうるさいほどの注意を受けながらも私はうれし涙が止まりませんでした。それは彼が三十五、私が二十二の時でした。そして私たちの結婚生活は順風漫歩に進行していったのです。
 彼は常に忙しい身でしたがそれでも年に何回かは海外旅行に私を連れて行ってくれました。子供は中々できませんでしたが、彼は私にはやさしく、私は幸せの絶頂にいたのです。

 ――それがある時

 あれはたしか秋の午後でした。とても良い天気でつい鼻歌さえ出てしまいそうな穏やかな日でした。私たちは都会のマンションから郊外の邸宅に移り住んでいました。その日は休日で彼はとても素晴らしい料理をご馳走するからと、私に朝から言っていました。
 私は雑誌を見ながらその時を待っていました。やがて夕暮れが近づいた頃、彼はコックの帽子をかぶってテラスのテーブル席で待つ私のもとに現れたのです。
まずスープが出てきました。そして丸皿に様々なサラダが溢れ、クロシュをかぶったメインディッシュはいい香りのお肉でした。香味醤油で味付けされており、それはとてもおいしい料理で私は彼が何でもできる人なのだと改めて感心してしまいました。
 上等なワインもあけ私はもう有頂天に喜んでいました。二人だけの宴もたけなわの時です。彼は何ともたとえようのない笑みを浮かべたのです。そして取って置きの料理をご馳走させてもらうよと言って私の前に大きな皿を出して見せたのです。それにもクロシュが被せてありましたが、蓋を取ってみて私は笑いそうになりました。
 それは大きな皿とはアンバランスな小さな料理でありました。ちょうど小指の先ほどの可愛さでミルク色の豆の様にも見えました。彼はそれを丁寧に器用にナイフで二つにしました。
 そして彼はちょっと私の眼を真剣に見つめてから口に入れたのです。そしてゆっくりと本当にゆっくりと顎を動かしてそれを食べたのです。

                          つづく
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