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愛しき君を食す 7

Posted by 松長良樹 on 04.2011 0 comments 0 trackback
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 ――ああ、私にはもうあの光景が一生忘れられない。
 地下室の大きな作業台の上に女が寝かされていました。真っ白な蝋のような艶めかしい裸体をさらして女が横になっていたのです。近づくと私は気絶しそうになりました。そして危うく嘔吐しそうになりました。女の左足はちょうど腿のあたりから何か鋭い刃物で切断されていたのです。
 私は全身を小刻みに痙攣させながらも女の顔を覗き込みました。と、それは、ああ、それは妹の変わり果てた無残な姿だったのです。
 私は絶叫しました。何度も絶叫しました。床がどす黒い血で覆われています。私はその血に足を取られて転びそうになりました。しかし私は転びませんでした。なぜなら、私の腕を誰かがしっかりと握ったからです。
 それは暗闇から躍り出た新太郎だったのです。私はすべてを悟りました。新太郎はどこにも出かけてなんかいない。ああ、新太郎はここにずっと、そしてここで……。ああ、妹を喰っていたんです!
 新太郎が何かを言っていました。懸命に私に何かを訴えていました。しかし私には一切新太郎の言葉は聞こえませんでした。聞こうとも思いませんでした。そして私は新太郎の手を振り切って階段を上って行きました。心の中が酷い憤りでいっぱいになりました。
 私の身はともかくとして、よりによってあたしの妹を、ああ可愛い妹を! 私の心は悲しいとか切ないとかそういう感情の前にもう抜き差しならぬ激怒が猛り狂っていたのです。許せない! 断じてこの外道を、この犬畜生にも劣る極悪卑劣な怪物を! 
 私は階段を躍り上がると玄関フロアに飾ってある、十九世紀イングランドで決闘に使った二本の剣の一本を手にしました。そうです。新太郎が骨董屋で大金をはたいて買ってきた、十人以上もの血を吸った本物の剣です。とても重いはずの剣がその時の私にはなんとも軽く感じたのです。
 すると新太郎は私を追ってすぐそこに立っていたのです。
「有梨香! 話をきいてくれ! たのむ!」
「やだーっ!!」
 私は泣きながら絶叫しました。
「僕はお前が好きで好きで食べたかった。でもそんなことはできない。そんなことをしたらお前が悲しむし、お前が死んでしまうから! だから我慢してた!! 我慢に我慢を重ねてた。そしたらお前の妹が家にきた。だから僕はお前の代わりに妹を喰った!! お前の為に妹を喰った!! たのむ、わかっておくれ! 有梨香!!」
 新太郎の口の周りに血糊がべったりとついていました。その時の私は鬼のような顔をしていたに違いありません。
 そして私は心の奥の暗い部分から恐ろしい疑問が湧き上がってくるのを感じたのです。私はこの男が本当に好きだったのだろうか!? そうじゃない。私は今の暮らしを失いたくなかったんだ。そうなんだ!
 私はこの裕福で豪奢な皆が羨むようなこの生活を、ただ失いたくなかったんだ。愛なんてこいつに耳を喰われたときに、とうに破綻してどこかに消え失せてたんだ。
 新太郎が悲しそうな顔をして私を見つめました。しかし私の眼は異様にすわっていたのです。でも身体の震えはまだ止まりませんでした。

                              つづく
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