驚きのお話

Posted by 松長良樹 on 26.2011 0 comments 0 trackback
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「えっ? なんだってそんな事の為に人は生きてきたっていうのかい!」



                ――タイタンの妖女より。


 あるとき街頭で季節外れのコートを着た白いマスクの男が、通行人になにかを耳元で囁やいた。するとささやかれた男が「うぎゃー!」というすさまじい悲鳴をあげてその場に倒れた。本当に物凄い絶叫で周りの人達が竦みあがった。
 その事件は決して滑稽な事件などではなかった。なぜならその囁きを聞いた若い男が口から泡を吹いて即死したからだ。その男の顔は本当の地獄でも見てしまったように歪んでいた。
 それでも最初は単なる奇談として扱われたが、そういうことが連続して起こるようになると政府は国民がパニックを起こさないように事件をうまく隠ぺいしてしまった。そしてこの今世紀最大の怪事件は秘密裏ではあるが大々的に捜査が開始されたのである。
 まず犯人は被害者にいったい何をしたのかという事が検証された。また被害者の死因についても死体解剖までなされて行われたが、外的もしくは内的な損傷などはなく、心臓麻痺が死因という事以外ほとんどわからなかった。
 結論としては想像を超える何かが被害者に心的ダメージを与えそれが死因らしいと推定された。しかしどう考えても言葉だけ聞かせて相手を殺してしまうような事が可能なのだろうか……。
 言葉の暴力とは確かに存在するが、この場合のそれとは異質である。
 犯人は囁くような仕草の中に、実はとんでもないことをしているかもしれないという憶測がなされた。が、それが何なのかは容易にわからなかったし、また被害者側の問題という可能性も捨て切れなかった。
 結局のところ事件の真相が中々見えてこないうちに事件が再発した。今度は高層ビルのエレベーターの中で事件が起こった。マスクをした指名手配の男がマスクを取って何かを呟いたのだ。乗り合わせた人全員に聞こえるようにである。
 結果は最悪のものとなった。若い人から高齢者までがエレベーターの中で引きつった表情を固まらせたまま死亡したのだ。こうなると被害者側に問題など見当たらなくなった。
 男が何らかの方法を用いて乗り合わせた全員を殺害したのである。
 防犯用のカメラの映像が早速解読された。そして専門家の手によって男が何を囁いたのかがその唇の動きから判明したのである。その内容に少しだけ触れたいと思う。
「さあて、皆さんよーくお聞き。 驚きのお話だよ、人生の本当の意味って話だよ。 ははははっ、心配しなさんな。これから哲学を語る気なんざ、さらさらないからよ。さーて実は○○○○○○○○、○○○○○○○○、○○○○○○○○。○○○○○○○○」
 これを解析した人物はすでに死亡している。そして不幸なことにこの言葉を知ってしまった者も既に死亡してしまった。
 まもなく犯人の男は耳栓をした警官達に逮捕されたのだが、逮捕と同時に厳重に猿轡をかまされた。
 しかし恐ろしい話である。聞いただけで人が死んでしまう話が実在していたのだ。尚この男は風体のよくない中年であったが鷹のような鋭い目をしていたという。
 過去形で書くのもこの男はろくに取り調べも裁判もされないまま、闇で処刑されてしまったのである。彼はついに一言の釈明する機会をも与えられなかった。
 しかし事件の真相は今もって解明されていない。たとえば男の後ろにテロ組織が存在しているのではないかという懸念。それにそんな恐ろしい話を知ってしまっている本人はなぜ死なないのかという疑問。これは後に外人を使ってしゃべらせたので本人に意味がわからないので死ななかったといった憶測がなされたが、これらは未だに推測の域を出ないのである。結局こういった初歩的な疑問さえまったくわからぬまま、事件は闇に葬られたままなのである……。
 余談ではあるがこれを実は秘密警察が録音していたという話がある。その音声ファイルは厳重に保管されてあるのだと言うが、誰も聞きたくても訊けないのが実情なのである。

 ――最後に諸君に忠告しておきたい。怪しい人物のささやきには決して耳を傾けてはいけない。耳を塞いだままその場から一目散に立ち去るのが一番なのだ。



                       おしまい。
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