売られていた地球 前編

Posted by 松長良樹 on 29.2011 0 comments 0 trackback
4529774_convert_20110929212720.jpg

 ――この話は、まったくもっておかしな話なのだが、法的にみて問題がないようでもあり、いや、やはり心情的には納得など到底出来そうもないのであるが、大宇宙憲法は存在していたという、驚くに足る厳粛な事実を重く受け取らざるを得ないのだろうか。

 暮れも押し詰まった夕暮れ時に彼らは何の躊躇もなく正々堂々と、連邦議会の上空に現れて拡声器を使ってこう言い放った。
「この星(地球)は我らが買った。だからさっさと出て行け!!」
 最初は道行く人もただきょとんとしているだけで、最近落ち目のTV局がへんなドラマでも撮っているのだろう等と思って悠長に構えていたが、その楽観的な予想は見事に裏切られた。
 彼らは巨大な母船を難なく議会の横の広場に着地させた。彼らとは言わずと知れた地球以外に存在する知的生物であり、宇宙人そのものであった。彼らは細くて軟弱そうな体に異様に光るトカゲのような眼を持っていて、狡猾そうな表情をキリリと引き締めていた。しかしその表情の中にとぼけたひょうきんさも合わせ持っていた。
 やむなく軍が出動する羽目になったのだが、彼らが意外なほど紳士的な態度で終始応じたので、時間はかなりかかったものの大統領との面会の運びとなった。


 大勢の報道陣・科学人・軍人・やじうま等の見守る中で彼らは彼らの為に敷き詰められた赤い絨毯の上に現れた。そして大統領が握手を求めると顔をしかめて渋々握手をした。
「とにかく私達はここに契約書を持っていて売買契約は完全に成立しているのだから即刻地球を明け渡してもらいたい」
 宇宙人が流暢な英語で早口でそう言うと大統領は苦笑いしてしばらく考え込んだ。そして言った。
「そんなことより、あなた方の為に歓迎の席を用意しております」
 すると彼らは両手を振って、うんざりというジェスチャーをした。
「歓迎の席? 無意味です。どうか退去なさっていただきたい、この星から即刻」
「それはどういう意味なんですか?」
 と大統領。
「どうもこうもありません。地球を買ったのですよ、私たちは」
「誰から?」
「ソドニックという地球人です。その者があなた方の代理をしたのです。彼は信頼できる代理人です」
 と言って彼らは契約書をその場でひろげて見せた。大統領はそれをあまり真剣に見なかった。そして言った。
「ソドニック? さあ、きいたこともありませんね。そんな者は」
「このとおり、契約は成立している」
 宇宙人が契約書のソドニックのサインの部分に指をあてた。大統領は冷静な顔だ。
「まことに悲しむべきことですが、そのソドニックという人物はきっと嘘つきか詐欺師でしょうね。あなた方はソドニックに騙されたのですよ。きっとそうだ」
 大統領が憂いに満ちた表情を浮かべた。
「……」
「地球には法と言うものがあるのです。法的にちょっと難しく言うならそれは無権代理というものに当たりますね。地球を売買する権限なんてソドニックにはない。無権代理に於いては、原則としてその本人に効果は帰属しない。つまり契約は我々が追認しない限り無効ですよ」
「そうでしょうか」
 今まで後ろにいた背の低い宇宙人が前に出てしゃべりだした。インテリ風な宇宙人だ。
「宇宙にも法はありますよ。厳粛で崇高な法がね。我々はそれを忠実に守ってきた」
 大統領が唖然とした。宇宙人は続ける。
「だから、もしソドニックが詐欺師だったとしても、仮にそうであったとしても、私たちは地球人というものをよく知らなかったのです。だからソドニックを心から信じて契約をした。それに大枚三兆スペーシアはすでに支払い済みなのです。我々の行為は善意・無過失であり、この場合表見代理が成立する。契約は有効なのです。参考までにここに表見代理の要件を列記しますと(1、無権代理人が代理権を有するような外観を有すること)彼は上等な服を着て裕福そうで威厳があり、私は地球の所有者からすべてを委任されていると言った。(2、相手方が外観を信頼して善意無過失で取引したこと)これはすでに申し上げた。 (3、本人が代理人の外観について帰責事由を持つこと)ソドニックは宇宙へ旅立つ際に国連から地球大使という肩書を授与されていて、これもまた我らが彼を信じてしまうための帰責事由であるとみなされます。つまりこれらの要件に今回の契約は適合する」
「……これは驚いた。あなた方の法は我々の法律と実によく似ている」
「似ている? 我々の宇宙法は全宇宙のどんな方より優先される。いわば絶対法なのです」
「……」
 暫らく押し黙った大統領は少し時間を下さいと彼らに頼みこみ、ソドニックとう人物を徹底的に調べさせた。その結果に大統領は驚きを隠せなかった。ソドニックは大富豪の科学者であり、変人・奇人であるが自作のロケットを作りあげ、5年前に宇宙旅行に単身旅立ち、それきり行方知れずの天才なのであった。
 そのソドニックが宇宙のどこかで彼らに遭遇し、地球を売ってしまったらしいのだ。三兆スペーシアとは地球のお金でいくらなのかも見当もつかなかった。
 会談は再開され、宇宙人が弁舌をふるう。
「お互いに事情が判りかけてきたようですが、悪いのはソドニックなのです。我々としては彼からお金を取り返す事が出来ない以上地球を貰い受けるしかありません。それも当然にです。あなた方としてはソドニックに損害賠償を請求するしかないでしょうね」
「それはむりですよ」
 大統領は困り顔だ。
「とにかく、我々は地球の明け渡しを要求します。もしあなた方が拒否するなら、我々は大宇宙裁判所に告訴しますよ」
「大宇宙裁判所…」
「ええ、宇宙で一番の権威がある最高裁です。判決が下されればあなた方はこの星から強制撤去される。それに我々はこの地球から人間だけを一瞬に蒸発させることだってできる。でもそれをしたら法に触れるし、大人気ない。でしょ?」
 大統領の顔に汗が噴き出していた。地球のピンチであり、一大事に違いなかった。

 ああ、地球の運命はいかに……。    後編に続く
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/234-e73fabad
▲ top