Black Dog

Posted by 松長良樹 on 19.2011 0 comments 0 trackback
01_convert_20111120100230.jpg

 ガツンという鈍い衝撃を身体全体に感じたとき、はっきりと女の眼を見てしまった。その女は苦痛に顔を歪め、恨めしそうな瞳で彼を見つめていた。
 真っ赤なシボレーカマロのエンジンが、獣のように猛り狂っている。
 たった今、男は不覚にも人を撥ねてしまったのだ。工藤雅志はいきなり目前に飛び出してきた者を避けきれなかった。思わず急ブレーキを踏むと車体が軋んだ。
 そしてタイヤが異様な咆哮を放ってようやく回転を止めた時には目前に悲劇の惨状が展開していた。自転車の銀のシャーシが大きくゆがんでアスファルトの路面に突き刺さっていて、チャリンコはほとんど原型を留めていない。そこは海岸沿いの黒松林でその林の中から女は不意に出てきたのだ。
 血まみれの白いジャージが目に焼き付いた。そして女はあらぬ方向に首をひしゃげて息絶えていた。まだ若い女だ。その目は腐った魚のそれのように冷たく見開かれていた。
 呆然として思考は霞み、心臓をえぐり取られるような苦悩と絶望感が襲ってきて、とっくの昔に雅志は生きた心地がしなくなった。
 彼には弁護士という肩書があるし、なお決定的にまずいのは飲酒していたということだ。飲酒して事故るなんて、もう話にもならない。社会的信用ってものが崩壊してしまうに決まっている。いやそれどころか酒に酔って人を轢き殺したのだからもう彼は犯罪者にちがいない。
 ――ああ、ちっくしょう!!―― 
 いきなり断崖から突き落とされたみたいに雅志は心の裡で絶叫した。

 するとその直後に、のそりと黒い塊が女の傍に現れた。艶のある短い黒い毛波が月に異様に輝いている。魔物のようであったが眼を凝らすとそれは巨犬だった。隆々とした筋肉を引き締まったボディに纏っていた……。


                        つづく
スポンサーサイト
Category : ホラー


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/241-9c91047a
▲ top