Black Dog 2

Posted by 松長良樹 on 20.2011 0 comments 0 trackback
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 最初その犬は女の様子を探るように鼻を近づけていたが、もはや女が逝ってしまった事を知ると、クーンクーンと悲しげな鳴き声を上げた。
 そして暫らく悲しみを堪えるようであったが、振り返ったその形相は並みの恐ろしさではなかった。眼は血走り、耳まで裂けた口から牙を剥いて、まるで脳髄から巨犬は発狂していた。
 その瞬間雅志の身体はバネのように反応していた。車に飛び乗ってドアを閉めた途端に巨犬が体当たりしてきた。ドスンと言う低い鈍い音がボディに響いた。ドーベルマンのような獰猛さを秘めていたが、その巨躯はドーベルマンをはるかに凌駕していた。
 アクセルを思い切り吹かすとシボレーカマロが雄叫びをあげた。
 なにがなんだかわからない。しかし工藤雅志は確実に生命の危機と底知れぬ恐怖を感じた。とにかく逃げる事だ。国道をカマロが走り出すと雅志は大きく何度も深呼吸した。落ち着けと自分に言い聞かせる。
 あの犬はたぶん女の犬に違いない。首輪をしていたし、きっと自転車で散歩中だったのだ。しかしどうしてリードをつけていなかったのか?! わからない。とにかく奴は主人を殺されたと思ったんだ。そして俺を酷く恨んでいるんだ。だから牙を剥いてきた。
 雅志はバックミラーで追ってくる犬の姿を見ながらそう思った。やがて車が海岸線の自動車専用道にでると、雅志は一気にカマロを急加速させた。タコメーターが振り切れるほどにだ。バックミラーの黒い点が見る見る小さくなっていきやがて消えた。
 このまま逃げてしまおうと雅志は思った。犬が去ったと思うと少しだけ楽になった。
 
 ――しかしと、又雅志は思った。カマロに女の血痕でもついていたらどうしよう……。とてつもなく不安になる。血痕はなかったにせよ、自転車の塗装でもはがれて車についていたらそれで俺は終わりだ! 怖い。あの現場を警察に発見されたら、何らかの証拠が残っていたとしたら……。
 雅志は身震いした。地獄とはこんなにも身近にあるものなのだろうか? この世の一切が一瞬に消え去っていくような絶望感が襲い来る。
 いっそ自首した方が良いのか、ああ、どうしたらいい。どうしたら。

 まるで身じろぎもしない中天の月が冷酷にその情景を映し出していた……。


                          つづく

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