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占い名人

Posted by 松長良樹 on 04.2012 0 comments 0 trackback
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 ――いつものようにあたしは街角に座っている。ほとんど無表情なあたし。
 目の前の台の上に紫の布が敷かれその上に筮竹が立っている。あたしはベテランの易者なの。あたしほどになると永年様々な人間を観察してきたから、凡そ相手がどんな事で悩んでいるのか予測できてしまうの。それにしても現代の人間たちは如何に多くのストレスに晒されているのかしら。会社での人間関係の悩み、仕事上の悩み、はたまた三角関係の悩み、健康上の悩み、人の悩みが尽きない限り、あたしの客もまた絶えないのよ。
 そんな事を考えているうちに目前に妙に気落ちしたような表情の青年が通りがかったわ。あたしは絶妙のタイミングで声をかけるの。落ちついたいかにも易者らしい声音でなければならないわ。易者にはそれらしさが何より大事なのよ。
「なにかお悩みのご様子ね、よろしかったらみさせていただきたいわ」
 あたしがそう言うと青年が無言で立ち止まった。思うつぼね。
「……」
「恋の悩みですね。わかりますわ。お顔にそう書いてありますもの」
 あたしは静かにしかもしっかりとした口調でそう言う。
「よくおわかりですね。さすが易者さんだ」
「まあ、お座りくださいな。くわしくお伺いしたいわ」
「実は…」
 青年がちょっと口ごもったみたいだった。
「大丈夫です。易者は人様の秘密は絶対に他に洩らしたりしませんわ」
「実は僕は今すごく迷っているのです。僕に結婚をせがむ女性が二人いるのです」
「まあ、それは随分おもてになられて結構なことですわ」
 私は軽く微笑んで見せるの。少しだけ色っぽくね。
「いや、笑い事ではないのです。親からもそろそろ身を固めろといわれておりまして」
「あら、ご自分で決められないのですか?」
「はあ、それが二人とも凄く美人な上、教養も品格もあり、やさしさもあり、苦しいほどに悩んでしまうのです」
「なるほど」
「実は僕の父が実業家でして少しばかりのお金があるもので、大抵の女は財産目当てで僕に近づいて来るのです。僕は金目当てでない女と一緒になりたいのです。心の優しい誠実な女性と……」
「なるほどねえ」
「しかし、僕には二人の本心まで見通せないのです。なのであなたに占っていただこうかと」
「わかりました。お任せください。お二人のお名前と生年月日をお伺いできますか?」
「はい。一人はカナエ、もう一人はユリです。よろしくお願いします」

 あたしは真剣に占い、青年にはユリのほうを薦めておいたから、たぶんユリと青年は結婚するはずよ。
 しばらくしてユリがあたしの前に現れて心配そうに尋ねてきたわ。
「どうですか、彼は来ましたか?」
 あたしは笑顔で自信たっぷりにこう答えるの。
「大丈夫よ。あなたなら間違いないってあなたを強く薦めておいたから、彼はきっとあなたを選びます」
「良かった! そうなったら、お礼もはずませてもらいますわ」
 彼女は感謝の表情をして前金で五十万を置いていった。涙目だったわよ。残りは結婚が正式に決まったときにはいただくことになっているわ。

 えっ? もし青年がカナエのほうと結婚したらどうするのかって?
 大丈夫。あたしはカナエからも同じように頼まれているから、ユリにお金を返して、カナエからお礼をいただくだけだわ……。

 良心の呵責? なに甘いこと言ってんの。そんなものは小説家が物語を面白くする為にこさえた、絵空事に過ぎないのよ。


                  おしまい
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