ブラボー人造人間

Posted by 松長良樹 on 12.2012 0 comments 0 trackback
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 心ってなんですか? 
 感情が心なんですか?  
 
 心って何処にあるんですか?
 心臓ですか、脳ですか?

 意識が心なんですか? じゃあ意識ってなんですか?

 もしかして心ってラッキョウみたいなものですか?
 芯に心があるって思ってどんどん皮を剥いていったら、
 結局なにもないんじゃないんですか?

 あなたの心が知りたいって言うけれど、
 本当は自分の心さえよくわからないままなのじゃないですか?
  *  *

 そのアダムと言う名のロボットはヒューマノイドとして誕生した。
 ロボット工学の第一人者であるシグマ博士の傑作でもあった。なぜ傑作なのかというとこのロボットには心が宿る予定であったからだ。
 心を持つロボットこそ博士の念願であり目標であった。勿論これまでに様々なロボットが創り出されてはいたが、心を持つ機械は決して創り出せなかった。
 既に人間の脳を持つロボットは存在していた。しかしそれはサイボーグであり、脳はあくまで人間のそれで、機械の体を持つ人間以外の何者でもなかった。
 精緻な小型コンピュータを身体に埋め込んだロボットはこれまで何体も製作された。しかしそれらは心を持たなかった。彼らに生きろと言うプログラムを組み込んでも、最も人間的な『なぜ生きるのか』という問いに行き当たらなかったし、何の疑問も持たなかった。そして懸命に生きてはいたが、ただ生きているだけで、なにかの為にでもなく、うれしい訳でも、楽しい訳でもなく、ただ生きていた。そして彼らは遊ぶという事が最も苦手だっだ。いわゆる無意味の意味が彼らには理解できなかったのだ。

 しかしアダムは違っていた。アダムは素晴らしい神経伝達組織と人以上の五感を持っていた。最初から優秀な脳を埋め込んだわけではなく、最初は赤ちゃんのような白紙の脳を博士はアダムに埋め込んだのだ。そして時間をかけて、回りの情報を集め、整理し、分析し、そして考える。そういうものを博士は創ったのだ。

 そしてアダムには博士の並みならぬ想いが詰まっていた。アダムにはかつての戦友の面影が確かに刻まれている。第三次世界大戦の末期、博士は張間義男と言う男と一緒の部隊に所属していたのだが、その張間と言う男に命を救われた経験があるのだ。博士も若かったが義男もまた若い兵士で純真なところがあって妙に気の合う男だった。普段は寡黙な彼だったが時々変な冗談を持ち出して荒んだ兵士の気持ちを和ましてくれた。戦争も終結しそうなある時、手負いの敵の武装兵が博士と義男の背後に現れた。
 地雷地区であったから動きも慎重さを要していたし、もう撃たれると覚悟したとき、義男は反射的に博士を突き飛ばし、博士に発砲のチャンスを与えてくれたのだ。博士の銃は見事に敵を射止めたが義男は地雷に触れて爆死した。あのときの義男の目がシグマ博士にはどうしても忘れられない。あの時の無念さを博士は今でも引きずっていたのだ。
 博士は義男に似せてアダムをつくった。アダムが完成してから三年が経ったが、アダムに心があるとは言い難かった。彼は人間と挨拶が出来たし、会話は勿論、論議まで出来た。
 しかし、アダムには嬉しいという言葉が理解できなかった。楽しいも悲しいも、アダムには理解できなかった。アダムは論理の筋を通すのは好んだが、情に関しては全く無関心、無頓着であった。
「アダム」
 あるとき博士がアダムに話しかけた。
「何でしょう博士」
 アダムが抑揚のない声で答えた。
「わしはもう歳だし、お前より早く死んでしまう」
「はい」
 冷静にアダムが答えた。
「悲しいかい? アダム」
「いえ。至極当然の話です。私はヒューマノイドですし、少なくともあと百年は生きています」
「そうだな」
「わしはお前に心を持たせたい」
「心? そんなもの無意味です。生物に於いて脳は生存のための一機関にすぎません」
「無意味か…」
 博士の顔が赤らんでいた。
「心は人間の弱さの要因です。心が人間を迷わすんです」
「アダムなぜ、お前には心が宿らないんだ」
「心など必要ありません」
「なぜそんな事を言う、アダム…… 本気でそんな事をいうのか」
 博士が眉間に皺を寄せた。憂鬱そうな面持ちであった。
「うれしいとか、楽しいとか、悲しいとか、そういう気持ちをおまえは持ちたくはないのか」
「はい。不必要です」
「このわからずや! わしはお前に心を持ってもらいたい。義男のような心を」
 博士がかなり大きな声を出した。
「お前にも物に感動したり、感謝したりしてほしいんじゃ」
「私には理解できません」
 アダムが冷ややかに答えた。と、博士が急に語調を荒らげてこんな言葉を言い放った。
「このばか! 死んじまえ。ポンコツ! 変態!」
 いきなりシグマ博士が気でも違ったようにアダムを罵倒したのだ。
「……」
 今度は博士がいきなりアダムの頬を平手ではたいた。アダムがのけ反るようであった。
「な、何をするんですか!」
 アダムの目が赤くなったような気がした。頭から湯気でも出ていたかもしれない。
「ゆ、許しませんよ! 博士!」
 アダムが激情して博士を睨み付けた。

 その瞬間、博士は満面の笑みを湛えてゆっくりとこう言った。
「――おめでとうアダム。おまえには既に心がある」


                    了


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