脅迫電話

Posted by 松長良樹 on 14.2012 0 comments 0 trackback
589654[1]_convert_20120314210639

 中田という中年の男の家の電話が鳴った。真っ昼間である。
「もしもし、中田さん?」
「はい」
「お宅の可愛い息子さんは預かりましたよ」
「……」
 革張りのソファ、そして高級な調度品、テーブルの上には電話。
「もしもし」
「……」
「中田さんでしょ。聞いているんですか?」
「で?」
「でって、だからお宅の可愛い息子さんは預かったと言ったんですよ」
「ありがとう」
「はっ? ありがとうって、こっちはあんたの息子を好意で預かったわけじゃないよ。その逆だ」
「ほーっ」
「いやに落ち着いていますが、これは一般世間でいう誘拐ですよ」
「それはユーカイだ」
「あんた、今シャレた?」
「まあ、ヒヒヒヒッ」
「あんた驚くべき親だね。息子が可愛かったら身代金一千万を用意するんだ」
「……できなかったら」
「その時は息子は生きて帰れないよ」
「それって息子を殺すぞってこと?」
「そうだ」
「殺しちゃってください」
「なにっ?」
「助かります。ひとおもいに殺してくだい。あまり痛くないように。私にも少しは良心はありますんで」
「気―確かか?」
「実はあいつは私の実の子ではないんです。女房の連れ子で私に全然なつかないし、一言も私と口をきかない。可愛くないし邪魔なんですよ」
「おまえ、どういう奴なんだ」
「私はライオンです」
「はあっ? おまえ頭平気?」
「群れのボスを倒して新ボスになった雄ライオンはまず、元ボスの子をかみ殺す」
「それは、動物の話だろーがよ」
「私には動物的な一面があるのよ」
「なんて奴だ……。奥さんが悲しむぞ」
「女房は癌で若くして死にました」
「……」
「そんなことより絶対に息子を殺してくださいよ。警察には届けないから。後で脅されて通報できなかったと言いますから」
「……驚いたよ。呆れて口もきけねえや」
「最近、若い彼女ができてましてね。ちょうど殺そうかなあ、なんて考えてたところなんです。そこへあんた。助かります。お礼はしますよ。少しばかりだけど……」

 ツーーーーーー。
「あれっ、もしもし」
 ――電話はすでに切れていた。

  *  *

 その日の夕方、近くの公園で中田の小三の息子は発見された。泣き崩れる中田氏。
 背後に探偵らしい人物が立っていた。毛の長い特徴的な佇まい。
「良かった、明智さん。私はもう生きた心地がしなかった。死ぬ思いでしたよ」
「よくやりました。中田さん。僕の言うとおりにあなたは電話に対応してくれました。たいしたものです。素晴らしいアドリブだ」
「あなたを信じてよかった」
「僕があなたに代わってもよかったのですが、犯人は双眼鏡で部屋の様子を観察していたのですよ。だから仕方がなかった」
「そうだったんですか」
 まだ中田氏の顔は蒼白のままだ。
「メリットのない殺人など基本的にはないのです。少なくともこういう場合は……」

 ――再度中田が深々と頭を下げた。


                    了
スポンサーサイト


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/259-c21954e3
▲ top