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幻想エトランゼ 2

Posted by 松長良樹 on 04.2012 0 comments 0 trackback
 ここで自分とシグマ博士についてすこし書かなければならないかと思う。まずシグマ博士は天才である。少なくとも自分はそう信じているし今までの精神医学に於ける彼の功績を評価しない人間がどこの世界にいよう。彼は幼いころから秀才であり、心理学に目覚めたのは中学生の時であった。彼は人間心理の不思議さに並々ならぬ興味を抱き、今では高次心理過程の研究に没頭するかたわら、臨床現場においては薬物治療などの対症療法を中心とした生物学的精神医学に基づく化学的アプローチを行っているのだ。
 そして自分はシグマ博士の甥に当たり、結婚はしているが子供のない博士にことのほか可愛がられて育ってきた。だから自分は平凡な会社員である父よりシグマ博士を尊敬しているのだ。そういう理由で自分は博士の助手を喜んで引き受けているし、いろいろな薬の服用実験に進んで協力しているのだ。ちょうど今年で還暦を迎える博士であるが、博士の瞳の奥には科学する野心と情念がめらめらと燃えるのを自分は承知している。薬を飲んだ直後に博士は自分にこう言った。
「信二君の腕時計は今、午後三時を指しているね、薬が効き始めるのが三時三十分頃だから、それから約三十分間君は幻想を見続けることになる。そして午後四時には薬が切れて幻想は終了するから心配はない。その間も体調管理はしているし、もし、万が一の時は強制的に覚醒薬の注射をするから大丈夫さ。脳波計に異常が出たときも同じだ。心配せんでいいから幻想を楽しんでもらいたい。そして興味深い報告を聞きたいものだ」
 シグマ博士は穏やかに、しかも鋭利な探究心を秘めた瞳を輝かせてそう言った。というわけで自分は今、幻想の真っただ中にいる。あと十分もすればまたいつもの何の変哲もない世界に引き戻されるのだ。幻想と言ってもその材料は現実の記憶をベースにし出来ている。だからダリの大好きな自分が燃えるキリンを目の当たりに見たのも十分頷けるのだ。面白い。だが少し怖い。さすがにさっきから鳥肌が立ちっぱなしだ。まあでも怖いより面白い方が勝っている。見上げると丸焼きになった巨大なクジラが仰向けのまま風船のように大空を飛んでいるし、大輪のひまわりは雲に根をはり、地上に向けて花を咲かせている。それから身長が百メーターにも達しようという少女が自分を見下ろし、ニコニコ笑っている。頼むからへんな気は起こさないでほしいと思う。おお、なんという幻影達であろうか。
 幻想の残り時間もあと五分に迫ったとき、突然空が掻き曇りその雲の狭間から円盤がやってきた。それもあのインチキなアダムスキー型宇宙船でやってきたのである。そして自分の目の前に着陸すると、三人の宇宙人が出てきてニヤニヤと笑っている。痩せていて頭はヒョウタンのようで手足が異常に長い。自分はどうせ幻覚なのだからと高をくくり、ちょっと横柄な態度に出てみた。
「やあ、インチキ宇宙人さん地球へようこそ」
 自分の言葉に宇宙人はこう返した。
「君は、宇宙語が良くわかるね? 助かるよ。君の命は助けてやるから仲間として働きなさい」
「嫌なこった!!」
 自分はそう怒鳴ってみた。
「我々は三日で地球を征服する」
 嘯く宇宙人に自分はなんだかやたらと可笑しくなってきた。どうせ子供のころ見たSF映画の記憶がこんなどうしようもない幻影を生んだのだろう。
 だがしかし、自分は腕時計を見て瞬間に青ざめてしまった。とっくに午後四時を回っているではないか! という事はこれはまさか現実? そんなばかな。何かの手違いで薬の切れる時間が遅れているのだろう。そうに決まっている。でもそれから随分と時間が過ぎてゆき、もう午後六時になろうとしている。これはいったいどういう事なのだろう。自分の心の中に変な考えが頭をもたげ始めていた。

                       つづく
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