幻想エトランゼ 3

Posted by 松長良樹 on 05.2012 0 comments 1 trackback
 ――もしかしたら、午後四時を回っている事自体が幻想かもしれない。そうだ考えてみればここは幻想界ともいうべき場所なのだ。この世界に居て現実の時間が判るはずがないのだ。取りあえず自分はさっきから握手を求めている宇宙人に手を差し伸べ、にっこりと笑った。宇宙人も友好的な笑みを見せたが内心自分は心の動揺を隠しきれない。幻覚の中にいるから時間の感覚さえあてにはならない。そうだ、もしかしたら実験開始からものの五分しか経っていないのかもしれない。自分は何とか冷静に現状分析を心掛けた。焦りがこの実験では致命傷的な重大なミス繋がるからだ。とにかく覚醒するときをじっと待つ以外にはない。そんな試行錯誤をしている自分を宇宙人は傍で興味深そうに観察していた。
「ねえ、きみ顔色が悪いんじゃないか? なんとなく様子が変だよ」
 宇宙人が自分にそう言った。顔色が悪いって宇宙人に言われる筋合いはないはずだ。自分はなんだかイライラしてきた。まったく情緒不安定に陥っているのかもしれない。
「このインチキ宇宙人さん、あんたに人間の顔色の正常、異常がわかるのかい?」
「どうしたの張間君? そんな怖い顔して。さっきまでニコニコしていたのに」
 するとどういうわけか自分はかっとして履いていた下駄でいきなり宇宙人の頭を殴りつけた。かなり強い感触が腕に残った。
「あいたーっ!!」
 宇宙人が奇声を発した。しかしなぜ自分は下駄をはいていたのだろう? 考えてみれば至極不思議だ。そしてその行為はいつもの温厚な自分ではない。君付けされたのが面白くなかったのか? 自分でもよくわからない。なんだかこの世界ではうまく感情のコントロールができないみたいだ。
「おい、この人間はちょっとおかしいぞ。帰ろう」
 仲間がきて頭にこぶのできた宇宙人の肩に手をまわして引き揚げてしまった。ああ、自分は宇宙人との最初のコンタクトをめちゃめちゃにしてしまったのかもしれないがどうでもよくなった。
 自分は公園の芝生の上に寝そべっていた。覚醒するのがいったいいつになるか皆目わからないので夢の中で寝てみようと思ったのだ。すると目の前を白い蝶が優雅に飛んできた。きれいな蝶だと見とれるうちに、胡蝶の舞いという有名な荘子の話が思い出された。それはたしかこんな風な話だ。
 昔、周という者が夢を見た……。夢の中で自分が蝶になって、愉しげに花畑を悠々と舞っている。夢から醒めて見ると、こんな考えに取り付かれる……。はたして夢の蝶は自分が夢見たものだろうか……。もしかしたら蝶が夢見て自分になっているのではないか……。
 今まさに自分の心境がこれだ。幻想が現実に現実が幻想になりつつあるのだ。暫らく寝ようとしたもののどうしても寝付かれない自分は仕方なく立ち上がってとぼとぼと夕暮れの坂道を歩きだしていた。行くあてなんてないし、妙にうらぶれた気分だった。そして夕焼け空を眺めているうちになんだかとても怖くなってきた。このまま世界をいつまでも彷徨うのではないかという不安が打ち消しても打ち消しても心の中に浮かんでくるのだった。自分は最初多少のんきにこの世界をながめていたが無性に現実の世界に帰りたくなっていた。自分は懸命に考えていた。どうしたらこの幻想から覚醒できるかを真剣に考えていた。そして以前これは夢だと感づいた夢の事を心の片隅に思い出した。
 夢見ていてそれが夢であるとわかる夢。かつて自分はそういう夢を何度か見たことがある。そしてその時どのようにして覚醒したのかというと、心の中で何度も『これは夢だ』を繰り返しているうちに目が覚めたのだ。内容は忘れてしまったが恐ろしい夢だったことを覚えている。なんとかそれを応用できないものかと自分は考えて『これは夢だ』をなんども懸命に繰り返してみた。それほどまでに自分の精神は切迫していたのだ。

                      つづく
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2012.05.06 01:46 まとめwoネタ速neo
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