聖獣の系譜 2

Posted by 松長良樹 on 27.2012 0 comments 1 trackback
縺・♀・具ス具ス祇convert_20120527105308

 不吉な予感が電流みたいに身体全体を走り抜けると、脳裏に本能が危険信号を点滅させていた。その瞬間、はっきりと女の眼を見てしまった。その女は苦痛に顔を歪め、痛ましい瞳が虚空をさまよっていた。時速百キロ以上で疾駆する高速車から零コンマの世界でそれを見るなど、常人には到底不可能であろうが男の動体視力は常人のそれではなかった。
 真っ赤なシボレーカマロの3.8ℓエンジンが獣のように猛り狂っている。たった今、男は獲物の目をその脳裏に焼き付けてしまった。動くものには飛び切りの関心を抱くのは、男がまるでネコ科である証しであるようだ。思わず急ブレーキを踏むと車体が軋み、タイヤが異様な咆哮を放ってようやく回転を止めた時には車は路肩に乗り上げていた。
 ここは都会のど真ん中、深夜の外苑東通り。楕円の筒のノアビルが前方にその黒いシルエットのまま聳えている麻布台界隈である。この不夜城東京じゃいつ何が起こるかわからないし、それなりのこころ構えは常に必要なのかもしれない。
 赤のカマロから降りた男の名は望月丈、そうだ「獣の刻印」を読まれた読者であればご存知のあの黒豹男だ。彼は海底から奇跡の復活を遂げた超人である(あれから現在に至る彼についてはおいおい書いていく)とにかく彼は今、とんでもない事に首を突っ込もうとしていた。どうやら深夜の公道で若い女が何者かに追われているらしく、そこに運悪く通りかかってしまったのだ。こんな場面を黙って見過ごせないのは意外と人の良い豹男の好奇心とでも言おうか。
 望月が無類のスピード狂であるのは確かなのだが、彼は今まで一度たりとも事故まがいの惨事は起こしたことはない。もっとも相手がスピードに憑かれた命知らずの暴走何とかとなれば少しばかり話は違うが。そんな時でさえ彼の脳はすこぶるクールに働くようになっていたから、なまじ豹に変身するような愚行は金輪際侵さないのが常だった。
 女に近づくと彼女は直ぐに望月に助けを求めてきた。血の気の失せた可愛い唇が僅かに震えている。瞳の大きな色白のバタ臭い顔立ちの美人であった。
「た、助けてください!! 助けて!!」
 女は赤いワンピース姿で望月のわきをすり抜けるようにして後ろに回り込んだ。息を弾ませている。追ってきたのは人相の良くない連中が六人。酒の匂いが望月の臭覚を刺激した。リーダーらしい茶髪の若い男は薄紫のスーツを着込んでいた。周りの連中は仲間らしいが、まるで時代ずれのしたチンピラのような風体だった……。

                    つづく
スポンサーサイト
Category : 聖獣の系譜


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/268-6ab2853d
 不吉な予感が電流みたいに身体全体を走り抜けると、脳裏に本能が危険信号を点滅させていた。その瞬間、はっきりと女の眼を見てしまった。その女は苦痛に顔を歪め、痛ましい瞳が虚...
2012.05.27 19:38 まとめwoネタ速neo
▲ top