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プレゼント(その後の王子)

Posted by 松長良樹 on 27.2010 0 comments 0 trackback
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 幸福な王子は天国に居ました。そのむかし可愛そうな人達に自分の持てるもの全てを与え、自己犠牲の美学を身を持って神に示した… そう、あの伝説の王子です。
 つばめと王子は長い間天国の楽園で満ち足りた日々を送っておりましたが、クリスマスの近づいた晩に王子はその慈悲深い心でこう考えたのです。
 満たされない者にプレゼントを贈りたい。そして平穏な心と感謝の気持ちとを持ってクリスマスの夜を過ごせたらいいと……。
「ねえ神様、あらゆる世界で未だプレゼントを貰った事のない者は居りますでしょうか?」
 ある時王子は、天国で散歩していた神様をつかまえていきなりこう切り出したのです。神様はちょっと驚きましたが、真面目にお考えになってお答えになりました。
「プレゼントを貰った事のない者じゃと…… ほとんどのものはプレゼントを貰った経験があると思うがなあ」
「そうでしょうか」
「プレゼントを貰った事がないといったら、あの悪魔ぐらいのものじゃないかな」
「あ、悪魔」
「そうじゃ、あいつは万人から嫌われているからまず、生涯プレゼントなど貰った事などありゃせんだろうな」
「なるほど、確かに」
「おいおい、まさか悪魔にプレゼントをやるつもりじゃないだろうな」
 王子の真剣な顔を見て神様がちょっと心配そうに言いました。
「悪魔は元々天使だったのでしょう、その天使が堕落して悪魔になった」
「まあ、そうじゃが」
「では彼にプレゼントを贈り、これまでの事を水に流して、もう一度天使にもどしてやることは出来ないでしょうか?」
 本当に心根のやさしい王子は真剣に誠実な目を輝かせてこう言いました。
「うーん、あの悪魔が改心するとはわしには到底思えぬがな」
 神様は困った顔をしていました。でも王子は言います。
「私はどんな者にも良心があると信じています」
「……でもまあ、やめときなさい」
 神様は王子の身を案じてそう言いました。
「クリスマスイブに私は悪魔にプレゼントを贈ります。そして限りない孤独の洞窟の中で疑心暗鬼にかかり、世を拗ねて隠遁するものを愛の力で救うのです。どうか、どうかお許しください。親愛なる神様」
 王子の眼は真剣で純粋でした。神様はそういう王子がこの上なく好きでした。慈悲の心は神様にも十分ありますので、その邪心のない博愛の気持ちを共感できたのでした。
「まあ、そうまで言うのならやってみなさい。ただし、くれぐれも用心して行くのだよ。何かあったらわしを呼びなさい、どこへでも出向きますから……」
「はい。仰せのままに」
 王子は神様に軽く跪くと、悪魔の居る魔界にやってきました。暗く妖気に満ちた場所に出向いたのです。
 そして散々探してようやく悪魔を見つけたのです。悪魔は陰気な湖のほとりで人の魂を数えていました。大きな壷に魂が沢山入っていました。
 最初悪魔は王子を見ると機嫌を損ねたように渋面をつくりました。
「貴様、何者だ!」
 凄みのある声でした。
「私は王子です。幸福な王子です」
「……おまえ、気は確かか。おめでたい奴め」
 たいそう驚いて悪魔がそう言いました。
「なにしに来た?」
「孤独なあなたにクリスマスプレゼントをお持ちしたのです」
「な、なに……」
 さすがに悪魔の眼は点になりました。
「プレゼントだと」
「はい。プレゼントです」
「どういうつもりだ! いったいどういう?」
「悪魔さん。私はあなたに愛を知ってほしいのです。愛は孤独なあなたの魂を癒し、幸せの泉へあなたを招くでしょう。そして憎しみと、あなたを苦しめる煩悩から開放する。愛こそがあなたを救うのです」
「――な、なんだと。うーっはっはっあーーーっ」
 悪魔はついに笑い出しました。それは気違いじみた狂ったような笑いでなかなか終わりませんでした。悪魔は長い間、腹を抱えて大笑いしていましたが、やがてどういう風の吹き回しか、今度は涙を流し始めました。
「王子よ、あんまり馬鹿馬鹿しくて俺様はうれしいぞ! 本当だ、大いに嬉しいぞ!」
 王子も訳がわかりませんでした。
「俺は世界のすべてを今まで憎んできた。天使に嫉妬し、神を恨んできた。それがおまえときたらプレゼントだと、ほざきやがった。信じられない出来事だぜ。信じられん」
「どうぞ、信じてください。私は純粋にあなたを救いたいのです。はい。ここにクリスマスケーキと暖かい毛糸のマフラーをお持ちしました。これは私からの心を込めたプレゼントです」
「……ありがとよ、王子さん。俺様は生まれて始めてプレゼントというものをあんたから貰った。しばらく悪事はしないようにするよ。な、王子さん」
「悪い事はこれからはしないでください。ね、悪魔さん。それより天国で仲良く暮らしましょう。神様だってあなたを許してくださるでしょう」
「神様と、俺とは拗れちまってるから、関係の修復は難しいかもしれないが、俺にはあんたの気持ちが嬉しいんだ。天使だった頃の記憶が浮かんでくるようだぜ」
 悪魔は眼に涙を溜めてそう言うのでした。
「ありがとな。王子、ありがたく貰っておくぜ。ちなみに俺が他人に礼をいうのも生まれて始めての事だ」
 人の良い王子はとても満ちたりた気分になりました。良い事をしたと思ったのです。そして頭を下げる悪魔を何回も振り向きながら天国に帰ったのです。

 *  *  *

 クリスマスの夜、天国はクリスマスパーティーの真っ盛りでした。招き猫だの、モーゼだの、七福神だの、大勢が騒いでいました。
 そこになんと悪魔はやって来たのです。手に何かを抱えています。王子も神様もすぐに悪魔に気づきました。
「よく来ましたねえ、悪魔さん。天国にようこそ」
 王子は優しく言いましたが、神様は微妙な表情です。
「王子よ。貰いっぱなしというのは俺の性分にあわないんだ。だから俺もクリスマスプレゼントをもってきたのさ」
 そう言って悪魔は大きくて綺麗にラッピングした箱を差し出しました。その箱にはデコレーションケーキでも入っていそうでした。
「ありがとう、悪魔さん。早速開けても良いですか?」
 王子は目を細めて言いました。悪魔は答えます。
「ああ、無論いいともさ。これは俺のお宝中のお宝だ。あんたの善意に答える、とびっきりのプレゼントさ!」
 神様はなにやら心配そうな表情です。そして王子はその箱をゆっくりと開けました。途端に愉しげな場の空気が一瞬に凍りつきました。誰もが口をつぐんで言葉を忘れたかのようです。
 そこに現れたのは首でした。それも女の生首です。髪は蛇のようにうねり、紫の顔色は異様な恐ろしさを湛えていました。
「これはメデューサの首だ! 俺が生け捕りにして首をはねたのさ、見たものを石に変えることができるんだぞ!俺様の取って置きのプレゼントだ。どうだ、お宝だろ!」
 ――神は懸命に怒りを堪えておいででしたが、王子はまもなく気絶しました。

                          おしまい。
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