聖獣の系譜 4

Posted by 松長良樹 on 29.2012 0 comments 1 trackback
縺・♀・具ス具ス祇convert_20120527105308

 助手席で女はまだ恐怖に顔を引きつらせていた。しばらく言葉もなくぼんやりと前方を見つめていた。
「もう大丈夫だよ。安心しなさい、彼らの追ってくる様子はないから」
「どうもありがとうございました。なんとお礼を言っていいか……。でもとても勇敢でしたわ、あなたは」
「そんなことはありません。さあ家まで送りましょう」
「本当にすいません。お言葉に甘えさせていただいて良いのですか」
「むろん最初からそのつもりです。では道案内をお願いしますよ」
 望月の胸中にほろ苦い後悔のようなものがかすめた。それはこの女にかかわらないほうが良かったかもしれないと言う根拠不明の思いだった。女の言う道をゆく、乃木坂を通り高速に乗り三鷹方面にカマロは走った。街の灯りがどんどん少なくなり、いつか長くうねった坂の中腹に差し掛かった頃フロントガラスの向こう側にまるで中世の古城でも思わせるような洋館を仰ぎ見ていた。
「まさかあのお屋敷があなたの家だなんてことありませんよね?」
「あら、あそこが家ですわ」
「こりゃ、凄いお宅だ」
 そう言って珍しく望月が口笛を吹いた。まるでハリウッド映画のヒーローのようであった。カマロが洋館の近くに静かに止まった。空には月さえなく、雲がゆっくりと墨でも流すように動いていた。洋館の壁面にはびっしりと蔦が繁茂してその妖しさを一層際立たせている。深く青黒い壁、緑青が鉄の門を覆っていた。
「ありがとうございました」
 いつのまにか助手席の女は望月を見つめたままうっとりとしている。
「どういたしまして。今後は夜遊びには気を付けてくださいよ」
「ちょっと家に寄って行ってください。このままあなたをお返ししたのでは、あたしの気が済みません」
「いいえ、こんな時間じゃお邪魔はできませんよ」
 女の赤いスカートのスリットから覗く白い脚が妙に艶めかしい。女にはさっき迄とまるで違う色香が漂っていた。望月の鼻が女の体臭の変化を敏感に嗅ぎ取っていた。
「今夜は家には誰もいないんです。ちょうどいいから少しだけ上がっていってください」
「この大きなお屋敷にあなただけなんて……」
 会話が少し続き、結局望月は女に負け、車から降り小雨の煙る中ゆっくりと低い石段を上った。数段で館の門が二人を出迎えた。重い鉄格子の門はまさに中世の城のような趣である。女が門を開け望月を中に招き入れた。玄関ドアを入ると中は仄暗く黒檀の大時計のかかったフロアだった。女はそこを通って奥の部屋に望月を導いた。そこは時代がかったマントルピースのある広い洋間で、壁には大きな油彩の風景画が掛かっていた。
 女はなんとも不思議な妖艶さを漂わせていた。長く垂れた茶色の髪、そしてこの館に似つかわしくない白人とのハーフのような美貌を備えている。
「たいしたお屋敷ですねえ」
 望月がそういうと女はそんなことを気に留めない様子で、すぐに暖かいコーヒーを淹れて部屋に持ってきた。

                    つづく
スポンサーサイト
Category : 聖獣の系譜


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/270-c7df5e52
 助手席で女はまだ恐怖に顔を引きつらせていた。しばらく言葉もなくぼんやりと前方を見つめていた。「もう大丈夫だよ。安心しなさい、彼らの追ってくる様子はないから」「どうもあ...
2012.05.29 20:02 まとめwoネタ速neo
▲ top