スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

聖獣の系譜 32

Posted by 松長良樹 on 26.2012 0 comments 1 trackback
52rrr_convert_20120615193218.jpg

 そのタイミングで勇二は包丁を背後から振り下ろした。それが剛三の背に刺さった。しかし剛三は物凄い形相で勇二を振り返ると、怒気を孕んでこう言い放った。
「こ、この野郎、勇二てめえ誰に飯を食わせてもらっていやがるんだ!」
 包丁は急所を外れていたし、厚手の着物を着ていて、おまけに剛三は健康自慢の大男だった。血をみると剛三は狂ったように勇二を地面に叩き付けると、その剛腕で勇二を死ぬほど何度もなぐりつけた。勇二の顔面から血潮が噴き出てきた。まるで糸の切れた人形がぬかるみに転がったような、見るも無残な光景であった。
 むろん美沙子は泣き叫んでいた。兄を何とか救おうとして剛三の脚に絡み付いて泣きじゃくった。その美沙子を剛三は蹴り上げた。彼女がゴムまりのように転がった先に黒いブーツがあった。はっとしてブーツの主を仰ぎ見る美沙子。しかし顔は雨に霞んでみえない。革の長いブーツは、まるで軍人のはくような代物だった。その男は濃い茶の長いマントを身に纏っていた。腰から細身の刀を提げていた。まるで時代ずれした異様さであった。剛三がその男を凶悪の視線で射た。そして罵るように言った。
「な、なんだてめえは!」
 その男の顔はまるで鋼鉄のデスマスクのように無表情を極めていた。そして男は美沙子を一瞥するとまるで居合の達人のようにさっと刀を抜き放った。剛三が急を悟って身構えようとしたときには刀身が既に閃いていた。
 剛三の首から肩口にかけて赤い筋が入った。そこが裂けて鮮血が噴出した。そしてその血が雨と混じりあった。剛三がゆっくりと空を仰いで回転しながらその場に這った。一瞬の出来事であった。
 それを見据える目があった。勇二の恨めしい目だ。美沙子の怨念の目だ。

 翌日の新聞に坂野剛三の殺害とその子供が二人行方不明になった事が記事になった。結局子供の行方は皆目判らず、時間だけが過ぎた。
 兵頭玄一はその時から二人を一切学校に通わせなかった。苗字は母の旧姓である田沼を名乗らせた。そして教科書の代わりに帝国主義の教本が教科書になった。世間への復讐、そして世の変革こそが兵頭の教えであった。彼らの収容されたのは恐ろしく精神の屈折した人間を育てる施設であり、いつしか二人はその施設の首席になった。武道を習得し、十代で英才教育を受け、狡知にたけるようになった。
 勇二はあるとき生ごみを荒らすカラスの集団を、秘密裏に皆殺しにして、誰にも感づかれなかったことが兵頭の高い評価を得た。その勇二は根気と執念にすぐれた生物学者になり、美沙子は医者になった。これは学会にコネを持つ兵頭の力が多分に作用をしていた。それにこの二人の実の父が優秀な科学研究者であったことも否めない事実だ。そんなふうにしてこの侮れない二人の冷たい鉄の精神を持つ人間が誕生したのだ……。

                       つづく
スポンサーサイト
Category : 聖獣の系譜


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/300-f0d1c3c3
 そのタイミングで勇二は包丁を背後から振り下ろした。それが剛三の背に刺さった。しかし剛三は物凄い形相で勇二を振り返ると、怒気を孕んでこう言い放った。 「こ、この野郎、勇
2012.06.28 02:07 まとめwoネタ速neo
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。