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聖獣の系譜 33

Posted by 松長良樹 on 27.2012 0 comments 0 trackback
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 兵頭玄一はその冷酷、怜悧な一瞥を田沼勇二と美沙子に向けて叱咤するように言った。
「今回の件で組織はだいぶ損害を受けた。たった一つの小さな穴が大型船をやがて沈めてしまうように、ちょっとしたミスが忽ち大事を引き起こす。あの子供二人に感づかれ、あの基地を知らしめた上に、逃げられるとはどういう事だ、田沼!」
「はっ、申し訳ございません」
 田沼は頭をさげたきり、決してあげられなかった。
「どうして望月は逃げた! どうやって、どうして奴は拘束椅子を壊しもせずに逃げたんだ田沼」
「はっ、それが土田の証言では望月はあの拘束椅子からすり抜けていたらしいのです」
「……考えられん」
 兵頭が唇を捻じ曲げた。彼はステッキをつき、まるで旧日本軍の士官のような服を着ていた。頬に恐ろしい傷跡があり、眼光に刃物の鋭さがあった。ここは東京中野、実は彼らのアジトは首都東京にも各所に散らばっている。中野サンプラザからそう遠くない場所に雑居ビルがあり、その古ぼけた廃墟みたいなビルの地下室にダークムーンの連絡基地があった。彼らに居るのはビル三階の陰気な薄暗い部屋で、常に重いカーテンが外界を拒絶するように引かれてあった。そしてその地下の一室に絵里加は監禁されていた。むろん田沼美沙子がここに連れてきたのだ。
「あの二人を消せ、あの二人は危険分子だ、生かしておけば碌な事にはならんだろう。あの二人はお前が責任を持って始末しろ、我慢がならん。事故か何かに見せかけ、我々の存在を世間に気づかれるな。府中の基地はもうないのだから、このまま時を待てば事件も霞んでしまうだろう。望月は木村にやらせろ、あいつなら望月を倒せるだろう。もし双方が倒れたとしても仕方あるまい。秘密を知りすぎている望月をこれ以上野放しにはできん。いいか、勇二、命令だぞ、失敗したらお前をダークムーンの審査会にかけなければならなくなる。審査会は非情だぞ。そうなればお前は終わりだ」
「はいっ、なんとしてもやり遂げて見せます」
 悲壮な覚悟で返事をする勇二、しかし心の底から忠誠を誓っているわけではない。彼の狡猾な頭脳が考えることは、この組織をうまく利用して成り上がりことだ。悲惨な過去があったにせよ、悪人同士に信頼関係などは成立し得ないのだ。だが田沼兄弟は違う、あの苦境を共に生きてきたので、その絆は妙な具合に強かった。
「それから……」
 と今度は兵頭はさっきから一言も話さずに傅いている田沼美沙子を睨んだ。
「あの地下の女はどういうつもりだ。どういう事なんだ!」
 兵頭の強い憤りが伝わってきた。勇二が美沙子に目配せした。
「あの女は、木村が勝手にクラブから浚ってきたのです。あの女に自分の子を産ませると木村が言うので、望月の始末をしたら自由にしろと言ってあります」
「けっ、奴は自分のしたことの愚かさがわからんのだ。あの気違いはある意味、望月より始末が悪いかもしれん。いずれ始末せねばなるまい。或いは完全に洗脳してしまえば、なんとか使えるかもしれん。――しかしあの女は殺せ」
「はい。しかしお言葉をかえすようですがすぐに殺してしまうのですか?」
しかし兵頭は次の瞬間には薄気味悪い笑いでこう言った。
「いや、ちょっと待て、俺に名案がある」
 読者もこの会話から兵頭とは恐ろしい男だと察しられたと思う。この男の秘密もいずれ明らかになる時がくるだろう。背中になにか幽鬼でも背負っていそうな男であった。

      
                      つづく
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Category : 聖獣の系譜


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