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悪夢

Posted by 松長良樹 on 13.2012 0 comments 0 trackback
縺茨ス抵ス斐←縺垣convert_20120913204912

 その青年は深刻な顔をして精神科を訪れた。もう何日も寝ていないような疲れきった顔をしている。医師がその様子を見て心配そうに青年に話しかけた。
「さあ、おかけになって。だいぶお疲れのご様子ですが、大丈夫ですか?」
 青年がだるそうに椅子に座り、出し抜けにこう言った。
「先生、実は最近頻繁にひどい悪夢に悩まされているのです」
「夢ですか。そうですか、体調はどうなのです。身体的にご病気されているとか」
「いえ、身体は僕、丈夫なほうです。健康だと思います」
「なるほど」
「もしかしたら僕は頭がおかしくなったのかもしれないんです」
「ほーっ。で、悪夢とはどんな内容なのです?」
「それが、そのう……」
 青年は突然あたまを両手で押さえ、屈みこんでしまった。
「ど、どうしました。大丈夫ですか、かなり苦しそうですね」
「ああ、夢をお話しするのが怖いんです。実に怖い」
「……」
 医師の目に驚きが浮かんでいた。――かなりの重症のようだ。
「大丈夫ですよ、ここは病院だし、私はこの仕事をして二十年です。とにかく夢の内容を伺いしましょう。それが治療のヒントになるかも知れませんから」
 傍で若い看護師も無言で彼を見つめている。
「……」
「そうだ、深呼吸して気持ちを落ち着けて」
「いいですか、実はこれは夢なのですよ。僕の夢だ」
「はっ?」
 医師のカルテへ視線が青年に固定された。
「先生のお名前は加藤さんですよねえ。お歳は四十八歳」
「……な、なぜそんなことを知っているのです?」
「以前に夢の中で先生のお名前とお歳を伺いました。というか、既に僕は先生を知っているのです。僕はもう毎回この精神科に来ているんです。もう何回も何回も」
「そんなばかな」
 医師が苦笑いを浮かべたが、少し険しい表情になった。
「先生わかってください。これは僕の夢なんですよ。なんならこの先どうなるかをお話しましょうか」
「ええ、どうなるんです」
「先生は悪夢を見なくなるように、『夢を見なくなる薬』を僕に処方してくれます。そして、僕は我慢できないで看護師さんに水をもらって薬をこの場で飲むんです。この悪夢から一刻も早く開放されたくて……。そこで眼が覚める」
「眼が覚めるとどうなるのです?」
「僕はまた精神科の前にいます。そしてその繰り返しなんです。果てることのない夢の輪ですよ」
「どうしたらよいのでしょう先生、どうしたら……。いや、これはあなたが本当の先生だったらの話ですが」
 思わず医師が深刻な表情をつくった。すべてでたらめだとは思えない。しばらく鉛のような沈黙があって、医師がカルテを書き始めた。
「お薬を出しましょう。最近認可の下りたばかりの特効薬です。医学界では『夢を見なくなる薬』と呼ばれています」
「やっぱり同じだ。そんな薬きいたこともありませんよ。どこも変っちゃいない。僕はその薬を飲んで眼がさめて、そして……」
 そのとき今まで俯いていた青年がいきななり顔をあげてこう言った。
「先生、僕の変りにその薬を飲んでいただけますか」
「ええっ、私が飲んでどうするのですか」
 医師が困って苦笑いをした。
「先生、僕はこの夢から解放されたいんです。その為には今までとは違ったアクションをおこさなければこの状況は変らないと思うんです」
「……これは夢などではありませんよ」
「かもしれません、でもお願いです。先生、僕を救うと思って」
 青年の目があまりにも真剣だったので医師は笑いながら言った。
「いいでしょう。それであなたの気持ちが落ち着くのなら、健康な人がこの薬を飲んでもなんの害もありませんしね」
 医師は呆れ顔の看護師をよそに彼女に水を持ってこさせ、その薬を一錠飲んだ。

   *  *

 そこで医師は目を覚ました。――いつの間に寝てしまったのだろうか。
「あっ、あれっ? 患者はどこへ行った」
 するとそばにいた看護師がけっこうきつい口調でこう言った。
「先生、昼間から夢みたいな事おっしゃらないでください!」

 しかし直ぐに思いもかけない事が起こった。
 ――次に来た患者が、あの夢の青年なのであった。                     

                         了
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