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手紙

Posted by 松長良樹 on 30.2013 0 comments 0 trackback
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 ――近藤勇也から仙堂真奈華へ

 親愛なる、いや心より愛する真奈華。突然君のもとからいなくなってしまい、とても済まないと思う。もしかしたら君は一人暮らしの僕の麻布の陰気くさいアパートに何度も足を運んだのではないかな……。君のもとから煙のように姿を消すなんて、僕にしたら甚だ不本意な事だ。しかしこれには深い事情がある。君を心から愛するゆえの事なのだ。正直言えば今すぐにでも戻ってこの両腕に君をしっかりときつく抱きしめたい。
 実はこの手紙は出さないつもりでいた。しかし、僕を慕う君を想うとすまない気持ちにいたたまれなくなり、事の次第を先に明かしてしまう気になった。僕は今フィリピンのある島にいる。ここでは法と言うものが機能していない。だから僕はわざわざここまで来た。すまない。もっと率直に書こう。
 僕はこれから数時間後に椎名正芳と決闘とするところだ。ああ、この僕を許せ、この自分勝手な行為をどうか許してください。
 君が知っていたかどうかはわからないが、僕も椎名も大学時代に全日本学生フェンシング選手権大会に出場したことがある。優勝こそ逃したものの二人ともフェンシングには自信があった。椎名と僕とはライバルでもあったのだ。だから僕が「勝負はフェンシングでつけようじゃないか」と軽く言ったのを彼は真に受け、今や抜き差しならない状況になった。
 ああ、僕は彼に今までずっと嫉妬していた。彼は僕より家柄がいいし、頭も顔も悪くはない。貧乏な僕とは違うのだ。だが愛で僕は椎名に絶対勝つ自信がある。しかし椎名は手練手管で君をものにしようと狙っている。奴は卑怯にも君の親に近づき、君の背後からあらゆる手を使って君を手中に収めようとしている。どうやら椎名も本気で君に惚れたらしいのだ。僕はどうあっても椎名に君を渡したくない。だから命を賭けて椎名と決闘する。
 介添人は古い友人の後藤と足立に頼んである。君の目から見たら僕と椎名は仲の良い友に見えたかもしれない。でも、君の知らないところで椎名と僕は戦っていたのだ。――君の為に。

 真奈華、僕は覚悟している。そしてフランス中世の騎士になるのです。もし僕が帰らなかったら、僕を忘れてください。そして椎名を……。 いや、僕はきっと勝ちます。必ず、絶対に勝つ。そして晴れて君にプロポーズをするつもりです。ではっ、風邪などひかぬようにしてもう少しこの僕を待っていてください。


 ――近藤勇也から椎名正芳へ

 椎名、僕はなんといって君に礼を言ったらいいかわからない。君が怒ったような顔をして「真奈華を幸せにしろよ」と言ってくれた時の事が昨日のように思える。今にして思えば僕もどうかしていた。君に決闘を申し込むなんて正気じゃなかった。それにしても君の名案はどうだ。僕が決闘に勝ったことにすれば、近々に佐世保に転勤する君が決闘で死んだことにすれば、真奈華は完全に僕のものになる。その通りだ。済まない椎名。僕は彼女への手紙の中で君を悪者にしてしまった。心から君の友情に感謝するよ。男泣きに泣きたい気分だ。そしてこの恩を生涯忘れるものか。
 僕は真奈華に手紙を出す為にフィリピンにまで来た。そして剣でわざと肩と腕を切った。準備は万端だ。ともかく僕は真の親友を持てた事に神にさえ感謝している。ありがとう椎名。

 ――仙堂真奈華から母へ

 お母様、おかわりございませんか。
 実は近藤勇也から驚くべき手紙がきましたので、こうしてお便りします。今にして思えば一時でも近藤勇也に心を動かされたわたしが馬鹿でした。お母様、最近わたしは近藤から再三言い寄られまして、本当に悩んでおりましたが、今朝フィリピンから届いた手紙を読んで決心がつきました。わたしはお母様が薦めてくださった縁談を承知しようと思います。五十嵐正信様はとてもお優しく、わたしに細々した事にまで気をつかってくれます。財産もおありになり、申し分もございません。新婚旅行に行くならスペインがいいと教えていただきました。外交官の職業柄、あの方は世界を良く知っておいでです。素敵な男性ですわ。
 それに引き替え近藤勇也はまるで気の違った野蛮人だと、わたし、はっきりとわかりましたの。それに最近知り合った椎名と言う方も、どうも虫が好きません。詳細は今度お会いしました時にお話し致します。
 ――まずは縁談の承諾のご連絡まで。

 ――近藤勇也から椎名正芳へ

 椎名、この手紙を出すべきかどうか僕は随分迷った。そして長い事のなしのつぶてだった事をどうか許してくれ。手紙を途中まで書きかけて何度も破り捨てたが、やっぱり真実を君に伝えておこうと思う。
 君はあれから三か月も経つのだから、僕と仙堂真奈華とが仲睦まじくやっていると思っていた事だろう。しかし、しかし僕は日本に帰ってから、一度も真奈華に会っていない。いや、彼女は二度と僕には会いたくないそうだ。門前払いを食らわせられた。
 ああ、僕は無様に振られたのだ。僕は、君の好意をまったく裏切ってしまった。重ねて君には済まない事をした。なぜ振られたのか、今の僕には詳細はとても語れないし、わからない部分もある。君だから明かすが、僕はもう少しで刃傷沙汰を起こすところだった。  
 まあこれ以上言うまい。それに君の考えで僕も策を弄したのだから、僕も悪い。だから、僕は君に土下座をすべきなのかもしれない。
 ただ僕は、僕と仙堂真奈華は完全に終わったのだから、もし、もし君が少しでも……  すこしでも真奈華に未練があるのだったら、策をすべて明かして、すべて僕一人のせいにして、もう一度、真奈華の前に現れる事ができる。こう書くと君は怒るかもしれない。ばかにするなと怒り狂うかもしれないな。
 ああ、許してくれ椎名。だが、僕はいまでも君との友情を掛け替えのない宝だと思っている。なんだか支離滅裂な文章になってきたので、この辺で筆を置こうと思う。
 いつでも東京に来た時には僕の家に来て僕を殴り倒してくれ。

 ――椎名正芳から近藤勇也へ

 近藤、そうだったか。よく知らせてくれた。残念に思うがそれは仕方のない事だ。
 今俺は、俺の本心を明かすよ。君が真奈華の為に俺に決闘しようと言い出した時には本当に驚いた。だがあの時の君は随分興奮していて何を言っても駄目そうだった。だから意固地な君に少し腹が立ってあんな風にしたが、実をいうと俺はあの時にはもう真奈華から心が離れていた。俺は真奈華の事で君に忠告しようとも思ったが、あの時の君はきく耳を持たなかった。それに君の恋路の邪魔をする権利はないと思って、ああしたのだ。
 許せ、近藤。俺は君に恨まれてもいいから忠告すべきだった。彼女はあの時君に内緒で縁談をすすめていた。俺はそれを彼女の家に遊びに行ったとき、偶然来ていた彼女の母からきいた。君に話すべきだったが、どうも話ずらくてそのままにしてしまった。
 真奈華はそういう女なんだ。容姿は男をとろかす程美しいが、心根がいけない。いや、もうやめよう。これ以上は書くまい。およそ低次元の話になるから。

 それより、前を見ようじゃないか。君も俺も今回の事はきれいさっぱり忘れようじゃないか。俺たちはまだ若いのだ。そうだろう近藤。こうなったら本当にいい女を競争で探そうじゃないか。きょう見上げる佐世保の空は日本晴れだよ。近藤。
 また近いうちに会おうじゃないか、そしておおいに飲もうじゃないか。なあ近藤。

                            了
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