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小次郎の失敗

Posted by 松長良樹 on 14.2013 0 comments 0 trackback
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 時は江戸時代。太平の世も終盤に差し掛かった頃、相模の国に宮本小次郎という、どこかで聞いたことがあるような無いような名の悪者がいた。
 小次郎は盗人、追剥の類(たぐい)で行商人やら、町人やらから金品を奪い取っていた。
 しかし彼の顔を誰一人として見たものはなかった。なぜなら小次郎は先祖から伝授された透明になれる妙薬を密かに隠し持っているのだった。元々小次郎の家系は幕府につかえる忍者であったが、太平の世が長く続くと見る間に落ちぶれ盗人に転落したのだ。
 背に腹は代えられぬ不運な面もあったが、彼の中にあった悪の面は増強されてしまったらしく、近頃では悪事に快感を覚える程になった。辻斬り、追剥は当たり前、近頃では武家娘をかっさらい慰み者にしたうえ、身代金を要求するほどの悪行三昧だ。
 奉行所は小次郎の似顔絵を描いて町に撒こうとしたが、肝心の人相がわからない。だから瓦版の絵師は小次郎の顔を想像で描くより仕方がなかった。実際は中肉中背のどこにでもいるような男であったが、絵師の手にかかると凶悪でごつい男に変貌してしまった。
 
 小次郎にとって道場破りなど簡単なことであった。どんなに腕の立つ流派の剣豪でも透明になった小次郎には勝てず、道場の看板と大枚な金子(きんす)を持ち逃げされてしまう。なにしろその妙薬は着物はもちろん、刀までも透明にできるのだから小次郎は無敵といってもいいほどだった。これには町奉行所の同心達も困り果て、腕のたつ目明しさえ小次郎との遭遇を内心恐れる始末だった。
 
 あるとき小次郎は峠の地蔵の横で寝そべっていた。悪賢い小次郎の事だから、ただ寝ていたのではない。峠に通りかかる者を待ち伏せしていたのだ。すると懐が膨らんだ男がゆっくりと峠に差し掛かった。小次郎の鋭い臭覚が小判の臭いを嗅ぎ取っていた。
『しめた! かもだ!』
 小次郎は心でこう叫んで透明になり、一気に男に切りかかった。次の瞬間、小次郎の胴体は二つに裂けて宙に踊った。それは間髪入れずの神業であった。
 

 ――姿を消す妙薬も盲目の座頭市には、まったく、いや、まったく通じないのであった。


                     了

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