竜宮名古屋城

Posted by 松長良樹 on 14.2013 0 comments 0 trackback
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 久しぶりに一人旅でぶらりと名古屋に来た。以前に何度か来たことはあるが仕事でのことでほとんど楽しむ暇はなかった。今回はゆっくりとホテルを満喫してその晩ベッドに入ると、すごい夢を見た。
 ――見た夢とはこうだ。
 まず私は日本晴れのいい天気の下、天守閣にいる。城はむろん金の鯱、名古屋城だ。そして眼下には、なんと素晴らしい眺望であろう。土手に桜が咲き乱れ、お堀に花びらを散らせている。水面は空の青をより鮮明に映している。
 そして……。あれれ? 髷を結ったおなご衆が道を歩いているぞ。町の人達はみな着物姿。おや? ここは現代ではない。戦国の世。武将の時代だ。見とれているうちに私はこれが夢であることも忘れてしまう。というのもその後に名古屋城・おもてなし武将隊が私の前に現れ、様々な演目を魅せてくれ、充分楽しんだところに、なぜか美人が現れた。
 なんだか訳もわからない内に、姫のような女が傅(かしず)いてこういうのだ。
「わたくしは乙姫でございます。あなた様はちょうど五年前、名古屋に出張したときに、今にもカラスに食べられようとしていた一匹の銭亀をお助けになりました。そしてその亀を宿泊中のホテルに持って帰り、エサを与えるなどして可愛がり、東京に帰る時にはそっと人目に付かないように池にお放しになりました。その節はありがとうございました。その御恩をお返しする為、今宵は夢のようなひと時をお過ごしくださるように手配してございます」
 おお、思い出したぞ。あの時のゼニ亀を。しかし乙姫のなんと艶やかで美しい事ぞ! 私はすっかり武将にでもなった気になり、このパターンはもしかして浦島太郎? と思い当たった。その後のお楽しみときたらもうこの世の愉悦の最高峰に違いなかった。広い座敷に綺麗どころを多数はべらせ、歌をうたい、美酒に酔いしれ、うまいものをたらふく食べた(ひつまぶし・名古屋コーチン手羽先揚げ・海老フライ・味噌おでん等々)
 後のハレンチな詳細は刺激が強いといけないので省略するが、とにかく私は生まれてきてよかったなあ……。とあほみたいにニヤニヤと笑いっぱなしだった。私は思った。ここは竜宮名古屋城なのだ。きっと私は銭亀を助けたばっかりに、エセ浦島太郎になっちゃったのだ。それにしても夢とは思えぬリアルな体験で、もしかしたら夢に見せかけた現実なのかもしれないと思った。
 そうなると帰りたくないし、夢ならば覚めたくはなかった。私はそこで三日三晩遊び狂った。我が体力の限界まで。そして四日目の朝、目の下に隈ができただろう私に向かって乙姫が少しばかり悲しそうにこう言った。
「そろそろお帰りのお時間となりました」
 私はしばらく聞こえないふりをした。
「おなごり惜しゅうございますが、あなた様もここにずっとおいでになることは出来ますまい」
「いえ、できますかも」
 私は拗ねたように言った。しかし乙姫一同、畳に額が付くほど頭を下げ、私に一礼するのだった。私は悲しくて残念で泣けてきそうだったが、さすがにいい歳をして恥ずかしいのでしかたなく無言でうなずいた。
 そして目が覚めるとどうだろう。私は自宅のベッドで三日三晩眠りこけていたらしいのだ。私はこの時ほど独身で良かったと思ったことはない。既婚者なら途中で起こされたに違いないから。まあそれはいいとして、予想通り、私の枕元には玉手箱が置いてあった。
 やはり夢ではなかった。そしてそこで私ははたと考えた。この玉手箱を開けたら最後、即、老人になるかも知れないと。きっとそうだ。そこで私は玉手箱を開けなかった。全然開けなかった。やがて長い年月が経ち、私は自然に老人になった。そしてもはや余命いくばくもないと悟ったとき玉手箱を初めて開けた。と、中から白い煙と共に、やつれ果てた老婆が出現した。
「うあわ! あ、あんた誰だ!?」
 私はびっくりして大声を出した。と、老婆はすすり泣きながらかすれた声でこう言った。
「私は、乙姫でございます。あなたさまともう一度、逢瀬を愉しみたくて、玉手箱に潜んでおりました。それなのに意地悪なあなたはちっとも箱をおあけくださらない。ああ悲しい。こんなになって」
 私はつくづく後悔した。痛ましい程に後悔した。そしたら急に胸が苦しくなった。気が遠くなる。私が最後にきいた言葉は
「おじいちゃん! 死んじゃいや!!」
 だった。

                物語も私も おしまい。
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