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神を呼び出した男

Posted by 松長良樹 on 04.2013 0 comments 0 trackback
名称未設定-1[1] (2)

 そこに現れた人物は卑弥呼の時代にでも流行していたような、白装束を身に纏ってはいたが、頭は禿げていた。白い無精ひげを伸ばし、目はとろんとして眠そうであった。が、山田博士はその人物をとても愛おしそうに、或いは敬虔に仰ぎ見て、その前に跪いた。
「神様、ようこそ御出で下さいました」
 薄ぐらい研究室で熟年の山田博士は目を輝かせ、そう言う。博士は長年の研究の末、ついに神と呼べるものをこの世に復活せしめた。常に学界からも妻からも変人扱いされてはいたが、博士の気持ちは折れなかった。博士は神というものを信じ、神に魅入られ、長年研究に研究を重ねていた。神を統計分類し、博士の知らない神などほとんどいなくなった。中でも日本古来の神に博士は特別な好奇心を抱いた。山田博士は決して奇人ではない。それどころか博士の熱意とヒューマニズムこそが今回の奇跡を生んだ。
 だが山田博士の目的は神を呼び出すことではなかった。この荒廃した世の中を、不平等に二極化してしまった世の中を、平和で、自由で、真に平等な世の中に変えようと思ったのだ。神のお力によって。
 博士はまず研究室の地下に設えた居心地の良い部屋に神を招いた。そして妻の加奈子に丁重な神の世話を命じた。加奈子は最初、相当驚いて声も出ないほどであったが、夫の偉業を認めないわけにもいかなかった。

 だが神は地下にいて動かなかった。なにもしないのだ。来る日も来る日も加奈子に酒を所望し,それを飲んでは気持ち良さそうに鼻歌を歌う。そして刺身を食い、ステーキまで要求した。一週間が過ぎたころ、加奈子が愚痴を言い始める。食費と酒代がかさむと言うのだ。
 そこで博士は神にこう切り出した。
「ところで神様、あなた様のお名前をお教え願えませんでしょうか」
「わしはスサノオじゃ」
 その名を聞いて博士は舞い上がる。
「おお、それではあなた様はあのヤマタノオロチを退治された、あの有名な……。アマテラスオオミカミの弟様」
「そうだ。有名かどうかは知らぬが」
「そうですか、それは実に頼もしい事です。スサノオ様、実は今の世の中は腐敗しております。持てる者と持てない者の差は広がるばかりで、殺人事件は毎日のようにおこり、企業は人の欲望をただ刺激し、欲しがらせ、イタズラに競争させ、人間性を喪失させ、金さえあれば何でもできると錯覚させ、ああ、つまり一部の裕福な特権階級が民衆を搾取しているのです。うまく民衆に勤勉さを仕込んで利用しているのです」
「ほう、それはいかんな」
 スサノオが顎を撫でてしかめっ面をした。その反応が博士に希望を与えた。
「で、スサノオ様、私があなた様を呼び出した訳は、世直しに尽きます。あなた様のお力でこの世の中を変えていただきたいのです。神通力によりまして」
「よし! わかった」
 あまりに話のわかるスサノオに博士のほうが驚いた。スサノオはすくっと立ち上がると腰に携えた剣を抜き放った。
「ど、どうなさるのです?」
「その裕福な特権階級とやらの首を切り落とす。そいつがどこにいるか教えろ!!」
「お、お待ちください。それはまずいです」
「なぜだ」
「いや、それでは大変な事件になってしまいます」
 慌てた博士はなんとかスサノオをなだめた。

 それからまた二週間が過ぎた。博士は悩んでいた。スサノオを呼び出したのはいいが、なんとか合法的な世直しは出来ないものか、なにかいい方法はないものかと。
 結局スサノオは何もしないで、地下にいて来る日も来る日も酒を飲み、うまいものを要求した。山田博士は考えた挙句、スサノオを政治家にしようと思った。そしてスサノオを連れ野党の事務所めぐりを地道に重ねて行く方針をたてた。

 そんなある日、ある野党といい話が出来て帰ってくると、地下にいるはずのスサノオの姿がなかった。妻の加奈子に尋ねると、彼女はふくれっ面でこう言うのだった。
「あの方には天界にお帰りいただきましたわ」
「な、なんだと!!」
 驚き、呆れ果てる博士に加奈子は言うのだ。
「だってあなた、うちにはもうお金がないのです。光熱費だって払えないのですから、私達が餓死しないうちに消えていただきましたの! あの方はとても物わかりが言い方で事情を話しますと『わかった』といって出て行かれました。『もう二度と戻らない』ともおっしゃいました」
 それを聞いて山田博士はそこにばったりと倒れた、精根尽き果てたという痛ましさで。
「ああ、私の人生のすべてをかけた計画が、ああ、消えてしまったというのか!!」
 しかし加奈子はこう付け加えた。
「あの方からの置き手紙があります。あなたに読んでほしいとおっしゃいました」
 そこにはこんな事が書かれてあるのだった。

『山田博士、わしはどうやらこの世界には馴染めないらしい。それを感じたから天界に帰ることにした、わしは確かに神である。だが、あなたのしたことも偉大だと思う。よくぞわしをこの世に呼び出したものだ。たいしたものだ。あなたのしたことは神業(かみわざ)であり、あなたこそが現代の神であると思う。さらば。山田博士、世話になりました』

 ――手紙を持つ指先が震え、博士の両目には涙が潤んでいた。

                 了
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