アイドル殺人事件

Posted by 松長良樹 on 11.2013 0 comments 0 trackback
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 アイドルが殺されたその二日後に私の事務所に事件の依頼が来た。あまり気が進まなかったがその報酬の額と、依頼者の熱心さに心が動いた。殺されたのは花園真澄十八歳。今売れているアイドルグループの一員で全国に猛烈なファンが大勢いる。彼女は超ハードなスケジュールの合間を縫って病弱な母の見舞いに帰ったその日に、家の近くの暗がりで後ろから首を刺された。目撃者もない。
 事件の依頼主は姉の真奈だった。むろん警察も捜査を開始していたが、私は真澄の葬儀に行き、それとなく周りの状況を観察した。真奈の頼みで両親には私の素性は伏せてある。私は事件があれば害者や容疑者の家庭をまず調べる。そこに思わぬ真実が隠れていることもあるからだ。

 事件の中間報告の為、私は都内の小さなカフェで真奈と落ち合った。
「事件の方はどんな風です? なにかわかりましたか?」
「いや、今の所、はっきりした真相が見えてきません。ただ知り合いの刑事が容疑者を捕まえたらしいのです。まだ公表はしていませんが」
 矢継ぎ早に質問する真奈に私はそう答えたが、容疑者という言葉に真奈は当然強く反応した。
「えっ、容疑者? いったいどんな男です」
「いえ女です。大石めぐみといって、もと同アイドルグループのメンバーでした。今は引退しています」
「大石めぐみ! まさか」
「知っておいでですか」
「ええ、もちろんメンバーは一通り知っています」
「真澄さんと、大石さんの間にはライバル意識があったそうです。でも周知のように彼女は舞台から転落して脚を折った。腰もしたたかに痛めてもう復帰は絶望的だ。なんでも話だと大石めぐみさんは事故から人が変わってしまったようで、自分が見捨てられたとでも思ったのでしょう。それでプロデューサーやメンバーを恨んでいたそうです。特に反目しあっていたのが妹さんだった」
「で、彼女が犯人なのですか?」
「警察はそうみています」
「彼女は自白したのですか?」
「ええ」
「ええっ?! それじゃあ事件は解決したのじゃありませんか」
「そうなりますね。この私、小布施直哉の出番はなかったことになります。報酬もいただく訳にはいかないかもしれない」
 そこで私はコーヒーのお替りを頼み、彼女の表情を観察するみたいに眺めてこう言った。
「でも、御存じのように自白だけでは彼女を犯人にするわけにはいかない。公園に大石さんの松葉杖の跡があったという事ですが、私はどうにも腑に落ちない」
「なぜです?」
「松葉杖をついている人間に殺人ができるでしょうか? 警察の話だと夜、公園の茂みの中で待ち伏せしていたと言うのですが。どうもね」
 私は二杯目のコーヒーを飲み干してからこう言った。
「時間をもう少しください。私の悪い虫が騒いでいるのです。ところでメンバーの人気ナンバーツーは誰ですか?」
「えっ、ナンバーワンではなく?」
「ええ」
「それは今までは真澄だったと思いますが、今なら麗華でしょうね」
「そうですか。探偵が勘に頼るのは甚だ危険な事なのですが、今回は恥ずかしながら他に頼るものがない」
 真奈が不思議そうな表情で静かに頷いた。

 それから二週間ほど経って、私はついに真相を突き止めた。深夜という事もあって真奈は眠そうな顔で例のカフェにやってきた。
「こんな時間に連絡をしまして申し訳ありません。ですがニュースになる前にあなたに知らせたかったのです」
「で、犯人はいったい誰なのです?」
「順を追ってお話します。私にはまた殺人事件が起こるような気がしていた。意味不明な勘ですが。そこで空想好きな私は物語を組み立ててみた。メンバーの一人が不慮の事故に遭い逆恨みをするというストーリーの他に、メンバーのナンバーワンの人気が落ち目になり、ナンバーツーがやがてナンバーワンになると言う、単純なストーリーです。私は麗華に貼り付いていました。そしてその愛くるしい笑顔に魅了されました。で、ある時彼女は体調を崩し、少し自宅で静養する事になりました。私は外にいて彼女の様子を見ていました。すると黒装束の妖しい影が彼女の寝室に忍び入ったのです。私は夢中で部屋に入り格闘の末、その影を捕まえました。それは優奈でした。彼女こそが真犯人です」
「まさか、そんな事って」
 真奈はそう言ったきり絶句するようであった。
「優奈は自分がナンバーワンの座から転落するのが怖かった。どうしても自分がナンバーワンでい続けかった。それが動機です。公園の松葉杖の後も彼女が仕組んだのです。でもなぜ大石めぐみが、自白などしたのかと言うと実は彼女と優奈は二卵性の双生児だったのです。それは事務所の方針で秘密にされていました。隠されていたのです。優奈は自分のしたことをめぐみさんに話しました。そしてめぐみさんは優奈さんの為に罪を着たのです。自分の代わりに優奈さんに活躍して欲しかったのでしょう。兄弟愛でしょうね」
 真奈は沈んでいるようだった。そして私はアイドルと言う職業が、水面下で懸命にもがく姿を想像して決して愉快な気分にはなれなかった。

                     了
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