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病人と魔人

Posted by 松長良樹 on 22.2013 0 comments 0 trackback
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 かなり年老いた男だった。いや、実際は見た目よりはるかに若いのに、病弱なために老けて見えるのだ。彼は自分の身体の悪い箇所を熟知しており、いつも病院の個室から外の景色を眺めため息をついてばかりいた。
 そんな彼が無理を言って息子に海まで連れて来てもらった。どうしても海の空気を吸ってみたくなったのだ。そして息子を車に待たせて海岸をぶらりと散歩していると、波間に光る物が見止められ、良く見ればそれはアンティークなランプだった。
 すると子供のころ読んだアラビアン・ナイトの話の中になんでも願いを叶える魔法のランプと言うのがあったのを思い出し、本当にそんなものがあったとしたら、どんなにいいだろうと、何気にランプを拾い上げてかるく擦ると、どうだろう。魔人がそこに立っていた。
「三つの願いを言え、叶える」
 魔人は表情も変えずに、太い声できっぱりこう言った。男はとても驚いたが、やがて嬉しそうに、迷わずに願いを言うのだった。
「私はがんなのです。全身に転移している。まず一つ目の願いとして、がんを完治させてほしいのです。二つ目の願いは私は昔から心臓が悪いのです。不整脈は年中ですし、ときどき発作に襲われるのです。この心臓を堅牢な心臓にしていただきたい。そして三つ目の願いは、私は肝臓病も患っているのです。もうすぐ肝硬変になるらしいのです。だから好きな酒が飲めない。それどころか命さえ危ないのです。この肝臓も完治させていただきたい。その三つの願いをどうぞお聞き届け下さい」
「わかった」
 魔人がそう言うと、たちどころに頬に赤みがさし、まるで男が若返るようであった。だが消えゆく魔人は心の中でこんな風に思うのだった。
(しかしこいつも欲がないなあ。それに願い事がなってない。俺ならまず、一つ目の願いとして健康体になりたいと願うだろうな、そしてあとの二つはじっくり考えて。まあ千年前の俺だったらそのあたり、親切に教えたろうが、この仕事を二千年以上もやっていると、そんなことはもうどうでもいい事だ……。しかし俺自身の願いは何一つ叶えられないのだから、もううんざりだ)

                        おしまい



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