Posted by 松長良樹 on 01.2013 0 comments 0 trackback
おきお

 ある日、私は部屋の片隅で鍵を見つけた。まだ小学生の時だ。とても小さな、とても精巧な花の模様のある美しい鍵であった。

 いったい何の鍵だろうか? 両親に訊いても、祖父に訊いても知らないと言うし、心当たりも無論なかった。家中を探しても、学校を探してもその鍵はどこにも合わなかった。
 仕方がないのでキイホルダーにつけて遊んだりしていたが、ある時きれいだから欲しいと言うクラスの女の子にあげてしまった。やがて月日が流れ、その事はいつしか忘却のかなたに消え去ってしまった。
 成人した私はあるとき重い病に犯された。四肢は萎え、五体は重く、凄まじい頭痛に襲われた。私はたまらず医者に行った。都会の片隅にある開業医だ。

 年配の医者は丁寧に私を診察して、実に不思議そうな顔をした。

 数週間後には精密検査をしたが原因がよくわからないというのだ。

 私はとても不安になった。
 ――未知のウイルスにでも犯されてしまったのだろうか。医者はとても怪訝な顔をして検査の結果をこう付け加えた。

「実は、あなたの後頭部に小さな穴が見つかったんですよ」

「あな? ですか」

 私は嘘のような医師の言葉を無意識に繰り返していた。

「ええ、その穴はまるで鍵穴のようなのですよ。いったい何なのでしょうね」

 その声は密やかで、不思議なトーンをふくんでいた。

「もしかしたらあなた鍵をお持ちじゃありませんか?」

「……」

 唐突な質問であった。だが、その質問に遠い記憶が鮮明に蘇えるようであった。

 鍵……。もしかしたら、まさかあの時のあの鍵。
 
 
 私が絶句していると医者は胸のポケットから小さな鍵を取り出して見せた。そしてニヤリと笑うとそのカギを自分の後頭部に持っていき、カチャリと音をさせた。

 するとどうだろう。医者の頭が割れて中から白いハトが飛び出してきた。驚きを通り過ぎた私。それでも笑っている奇妙な医師。

 私は腰を抜かしそうになった。
 気を失いそうな私に医者は尚も驚くべき言葉を続けた。
「実は、あなたを待っていました。しかもかなり長い間です。私の娘が子供の時、ある人からきれいな鍵をもらった。わかりますよねえ」

 返す言葉もない私。

「あなたもわたしもある種の人間なのですよ。私はその為に医者になった」
 
 柔和は医師の微笑みが今も脳裏に焼き付いている。

 今の私は重い病から解放されて、とても幸福である。なぜなら私はその鍵で頭をカチャリとやったのだから。

 私はもう中年になったが若い時のまま長髪である。そして床屋は行きつけを決めている。
 理由はその床屋は寡黙で、決して後頭部の鍵穴の詮索をしないからに他ならない。


 私の頭からいったい何が飛び出したのか。申し訳ありませんが、それには触れずにおきます。


                        了

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