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その男

Posted by 松長良樹 on 20.2013 0 comments 0 trackback
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 保安官はその酔っ払いを留置所から引っ張り出すと、ヤカンにコーヒー粉をそのまま入れて沸かした、世辞にも美味いとは言えないコーヒーをテーブルに置いた。苦み走っていて西部の荒くれ者を相手にしてきた男の扱いは、決して丁重とは言えなかった。
「おい、もう酔いは覚めたかな」
 太い声で保安官がそう言うと男がかすれた声で答えた。
「ええ、もうとっくに覚めてますぜ。マスター(旦那)」
「マスター? その言い方はよせ」
 不機嫌そうな表情で保安官は吐き捨てるように言った。
「ところでおまえは何処から来た? よそ者のくせにこの町で騒ぎを起こすなんて馬鹿な奴だ。おまえみたいな年寄りが、牧場主のトムに喧嘩を売るなんて気違い沙汰だな。トムには取り巻きがいる、それもかなりヤバイ連中だよ。場合によったら、俺の知らないところでリンチになる可能性だってある」
 男は何も答えず、くたびれた青白い顔のまま壁を見つめていた。
「おまえが壊した酒場の椅子と鏡の料金に色を付けて払えば、ここは見逃してやるよ。そしてすぐこの町を出るんだな。おまえはよそ者で何にも知らなかったんだろうさ。この町には二度と来るな。わかったか」
 保安官はそう言って男を睨んだ。その言葉には多少の温情が含まれていた。だが男はわかったのかわからいのか、首をただ横に振った。
「わかりましたよ。ところで、マスター、いや保安官。こういう話を知っていますか?」
「なんだ」
「ええ、ばかながきの話ですよ。とんでもない悪がきの話なんですが」
「おい、おい、そんな話は聞きたくもねえぜ。金だけ置いたらさっさと消えな」
「わかりました。おとなしく街を出ますよ。じゃあ所持品を返してください。全部あんたが預かったんでしょ」
「ああ、いいだろう返してやるよ」
 保安官はそう言って椅子を引いて立ち上がると、鉄格子の横の粗末な抽斗から、男の帽子と財布と銃を持ってきてテーブルに置いた。男は財布を開いた。そして札を取り出そうとして手が滑ったのか、三枚の札びらと数個のコインがテーブル下に落ちた。男はテーブルの下に潜りこんで札をまさぐった。かなりの時間だ。
「ちきしょう、何処へ行きやがった」
 と忌々しそうに独り言を言いながら。そして男が顔をあげた時には、いつの間にか手に銃が握られていて、銃口は明らかに保安官に向けられていた。老人にはあり得ない早業と言っていい。だが、保安官は意外に慌てなかった。
「どういうつもりだ? なんのまねだね、そいつは?」
「俺はあんたにどうしても悪がきの話を聞いて欲しいんだ」
「いいだろう、それで気が済むなら話してみな」
「そいつは左利きの悪だったけれど、生まれつきはずいぶん人見知りをする、おとなしい奴だったんだ。いつも虐められていたくらいだからねえ。そんな奴が十二になりかけた時、母親が飲んだくれに酷く侮辱されたので、かっとなって相手を撃ち殺しちまったんだ。それから人が変わった。十五の時母親が死んで奴は家にもよりつかない札付きになった。だが奴は家族には決して牙をむけなかった。奴はとても孤独な奴なんだ。思った事が言えない臆病者だった。奴は育ちのいい母親からちゃんと教育だって受けたんだ。それに頭が良く達筆で、そいつは奴が州知事に恩赦を求めて書いた手紙を見ればわかる」
「で、何が言いたい?」
 保安官が低い声で男を落ち着けるようにそう言った。
「わからないかい?」
 男の身うちにちろちろと青白い炎が燃えていた。
「俺は、奴を何度か思い切りぶん殴った。奴が横道にそれないようにだ。だが駄目だった。悔しいがどうにもなりゃしねえ」
 そのとき保安官の顔からさっと血の引くのが見てとれた。
「俺はある時から、心にささくれが出来たんだ。そいつが痛くて仕方がねえ、どうにも我慢が出来ねえんだ。心の底でやっぱり俺は奴を愛していたんだ。パット・ギャレットという男が二十一になったばかりの奴を撃ち殺したんだ。俺は奴の死骸を見なけりゃよかった。それならここには来ねえ。奴は二目と見れねえ顔になっていたぜ」
「あんた、ビリーのなんなんだ!」
 はじめて保安官の顔に恐怖が浮かんだ。
「俺はキッドの親父さ。聞いた話だが、あんたは奴を闇討ちにしたそうじゃねえか。俺は先もないしどうなってもいいんだ……。仇討ちに来たよ、ギャレット!」
 その顔は笑っているのに飛び切り物騒だった。男の体内に暗い炎が燃え上がるようであった。
「そうか……。あんたわざとここに来たって訳か。だが修羅場を知る俺が弾を入れたままの銃をそう簡単にあんたに返すと思ったのか?」
 だが男は微動だにしなかった。そして苦笑いをして言った。
「俺の持ってる銃は、俺のじゃない。さっき抜き取ったあんたの銃だよ。そして早打ちは俺の血筋だ」

                      end
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