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夢の導線

Posted by 松長良樹 on 24.2013 0 comments 0 trackback
名称未設定-1 (41)[1]

『夢売ります』と言うのは、なにも安っぽくコマーシャルナイズされたキャッチコピーばかりを言うのではない。それが現実となった世界では、夢の売り買いが、きな臭い危険な気配を発散する。
 重く空気の淀んだ昼なお暗い倉庫街の狭間に、俺は蒼白い顔色のまま懐に銃を忍ばせ、赤いタクシーから降りたった。ここはキールシティ第三区。21世紀から置き去りになった街。
 俺はこのスラムの一郭にご法度の夢の売人が暗躍するのを探り当て、ここにやってきた。情報屋に飴をなめさせたのが効いたって訳だ。
 今のこの世界じゃ夢を見るのもままならない。いつの頃からか夢のマシンに依存するものが急速に増え、陶酔しすぎて自滅する愚か者が後を絶たなくなった。豚小屋みたいな酷い家で眠っている、汚い爺なんぞに俺は全く興味がない。人がどんな夢を見ようが俺には関係ないし、それが現実逃避だろうがなんだろうが、俺には他人の人生に深入りする気なんて毛頭ない。
 俺は仕事でここに来た。俺の仕事を簡単に言うなら、賞金稼ぎと言うのが一番わかりやすいかもしれない。俺は昼間から夢見心地の奴をあまり好きになれないが、俺が虫唾が走るほど嫌いなのは、闇で夢を売ってしこたま儲ける腹黒い連中のほうだ。奴らは決して夢を見ない。
 大昔、南部に禁酒法というものが施行されたと聞くが、この時代の法律、ドリーム・プリベンションにもそれに近いものを感じる。俺に言わせればダサイ法律ってところだ。
 まあ廃人みたいな人間が昼間から、公園に溢れるようになっちゃ保安局だって黙っちゃいられないだろが。だが、そんなことはどうでもいい事だ。俺の目的はターゲットひっつかまえて、そいつを死体でもいいから局に連行する事だ。それができれば報酬にありつける。それでいい。
 俺の頬を冷たい風が撫で上げる。薄暗い路地で餌を漁っていた野良猫が、俺に感づいてすっ飛んで逃げた。どうやら俺を嫌っているのは人間ばかりじゃなさそうだ。
 そこは寂れた湿っぽい場所だった。俺は黒い壁を背にして、息を殺しへばりつくようにして、薄明かりの灯った工場みたいな廃屋に忍び寄った。ガラス越しに中の様子を窺がう。思った通り、ケビン、グレッグお尋ね者の二人が椅子に座り、その背後には大がかりな棚には無数のカプセルが規則正しく並べてある。カプセル一個は10センチにも満たないが、それらの一つづつに、100万ギルの夢が詰まっているのだ。

 二人は何やら話し合っている。大方ろくな相談じゃないだろう。俺は気配を殺し、尚も執拗に状況を観察する。隣のブースには頭にヘルメットみたいな装置をかぶったままベッドでお休みの二人の男がいる。どうやらいい夢をご堪能なのだろう。
 俺が保安局だったらこの場で奴らを、現行犯として逮捕できる。しかし俺には権限というものがない。だから量子ガンだけが頼りだ。俺は唇を一回噛んで、ゆっくりとガンを抜いた。そして凄みのある声でこう言った。
「ケビン! グレッグ! お遊びはそこまでだ。黙って俺と来い」
「てめえ誰だ!」
 ケビンがまるでドーベルマンみたいな獰猛な顔をして俺を威嚇する。動じる俺ではない。
「あっ!てめえカイルじぇねえか。どういうつもりだ。いつから局の手先になった?」
「俺はもう昔のようなチンピラじゃない。これが俺の今の仕事だ」
 ケビンもグレッグもしたたかに薄笑いを浮かべている。奴らは狡猾だ。決して油断はできない。
「おい、おい、カイル。まさか昔のダチを本気で撃つ気じゃねえだろ」
 グレッグが嘯く。
「黙って来い。昔の俺じゃない。二人とも量子ガンを浴びて蒸発したくないだろ」
「どうしてもか?」
「ああ」
 その時ケビンが口笛を吹いた。すると奥のドアが開いて後ろ手に縛られた金髪の女が、男に押されるようにして現れた。俺は呼吸を忘れそうになった。心が一片の木の葉のように翻りながら底知れぬ闇に転落していく。
「エレナ!!」
 俺は絶叫した。そして混乱した。まぎれもないエレナ。
「そうだ。エレナだ。こいつは俺らの所に夢を買いに来た客だよ! それもちょうどいいタイミングでな! お前の大事な恋人も今は哀れな夢中毒患者だ。おまえがガンを撃てば、この女も死ぬ。それでもいいか。もし俺らを見逃せばお前の報酬の倍を出すぜ」
 エレナの腹に男のナイフが触れている。俺の思考が鉛のように重く固まった。だが暫らくして俺の憤りはマグマのように燃え上がった。許せない。
「ちきしょう!!」
 俺はついに引き金を引いた。

 俺が目を開けた時、三人の男が俺を、そしてモニターをじっと見つめていた。そして一人が拍手をすると、二人もつられたように拍手をした。黒服の局長の満足そうな顔。
「おめでとう。カイル君。保安局の試験に君は見事にパスした。たいしたものだ。君は鉄の男だよ。よく女と金を断ち切ったものだ。明日から正式な犯罪捜査の局員だ」
 俺は表情も変えず黙ってヘルメットを外した。
       
                          end
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Category : SF小説


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