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葛藤

Posted by 松長良樹 on 29.2014 0 comments 0 trackback
名称未設定-1[1]

 もし月が生きものでいて、それも飛び切り人間的な情動を持っているとしたら、きっと地球に惚れるのじゃないだろうか? だって地球は美しいし、まだ若いし、大きいもの。
 それに引き替え月はあばた面だし、そりゃ地球から見た満月は美しいけれど、傍に寄ったら顔色も悪いから幻滅かも知れないし、たぶん月は女に決まってるから、もじもじして地球が好きなくせに、好きだなんて到底言えないだろうな。
 そんなこんなしているうちに情熱の星、火星が地球にモーションかけてくるかもしれないな。彼女(きっと火星も女だ)は真っ赤なドレスを身に纏って、ジプシー女のカルメンみたいに能動的に、地球を自分のものにしたいと猥らな欲望をたぎらせるに違いないんだ。いや猥らと言ったら火星は怒るな。たぶん。
 ところがだ。ここで月の気持ちを考えてみると、火星と正面切って張り合おうとはしないだろうな。そういうのはナイーブな月は苦手さ。だからたぶん月はいじけるよ。そして何もできず泣き寝入りに近い事になる。でも月に女の情念というか、内に秘めた炎と言うか、そういうものが無いわけでは決してないんだ。
 だって月はいつだって地球の傍にいて、むかしから寄り添うようにしていたんだ。プラトニックラブと言うやつさ。だから距離間のある火星が、思いついたような気まぐれで、いきなり地球を連れて行こうとしたってそうは問屋が卸さないのさ。

 でもこの場合、一番肝心なのは地球の気持ちだ。言うまでもない事だし、もし地球が火星が好きになったと言うのなら仕方のない事さ。だと僕は思う。

 だからこれを現実に照らし合わせてみると、この状況は今の僕と二人の女性の関係に当てはまる。というか、もともと今のこの現実を星に例えたのだから、当たり前の話だ。実は僕たちは海難事故に遭った。不運にも難破したんだ。
 そして無人島に漂着した。原因は嵐による操船不能、そして座礁。最悪だった。けっこう大きな船だったけどすでに海の藻屑だ。助かったのは若い僕ら三人。真志という青年が少し生きていたが、あっけなく死んだ。
 生きているのは僕が月に例えた美那子、そして火星に例えた麻耶。――そして僕は地球。
 かれこれここで一か月が経った。この状況はかなり前に観ていた、テレビドラマ「ロスト」に近い。この島は温暖で多少苦労はするが、食べ物には一応困らない。カニや魚、木の実などが豊富にあるのだ。
 時々僕はここがハワイじゃないかと勘違いする。漂流した最初の頃なんて、誰かいないかと思い三人で大声を出しながら、この島の隅々まで歩いたんだ。美那子だけは怖がっていたけど。結局誰ひとりいない無人島だった。
 僕らはこのまま誰にも発見されず、年老いて死んでしまうだろうか? そういう風に悲観的に行く末を考えるととても怖い。この島で僕らを支えているのは、この恵まれた環境に違いない。太陽が燦々と照りつける晴天は、僕らの心に希望というものを喚起させてくれる。
 けれど今の僕が一番苦しんでいるのは三人の関係なんだ。僕は若い、そして健康だ。つまり僕の中で抜き差しならない性の衝動が、まるで船を遭難させたあの時の嵐のように吹き荒れるんだ。狂った猛獣のように。だって彼女達は裸同然で、僕の前を悠々と歩く。だから欲望を抑えるのが苦しい。これがどちらかの女が一人だけいたのなら、迷わず僕はその女と寝るに違いないんだ。力ずくでも。
 ところが意外とナイーブな僕にはそれが出来ないんだ。だいたい美術部の仲間が「ゴーギャンみたいに南の島まで行って、たくさん絵を描きましょう」なんて言い出したのが運の尽きさ。殆んどが死んでしまったもの。
 美那子は高校からの友達だったし、麻耶は大学に入って知り合ったけど、とても美人だ。ああ、どうしたらいい。麻耶と二人きりで焚き火をしていた時、彼女は僕にいきなりキスしてきた。僕は直ぐに馬みたいに欲情して、麻耶を押し倒したが、それを岩かげから美那子が見ていたんだ。そして小声で叫んだんだ。だから僕は美那子に悪くて、冷や汗は出るし、体が硬直してしまった。あの時のばつの悪さったらなかった。
 僕は美那子が嫌いじゃない、愛おしいんだ。でも麻耶の柔らかい肉体が欲しくてたまらないんだ。苦しいよ神様。二人ともなんて悍ましい。僕には出来ないんだ。

 もし地球が月と火星と両方が好きになっていたとしたら悲劇じゃないかな。どちらかに決めなきゃならないんだろうな。それが出来なかったとしたら、もしかしたら地球は自分がいなくなればいいと思うかもしれないな。でも地球に自殺する勇気がなかったとしたら、どうするのかな? その逆を考えるんじゃないだろうか。地獄の責め苦から逃れるために。

 僕は島に流れ着いていた、船の残骸の中から長い角材を見つけた。そしてそれを何度も振ってみた。相手が出来るだけ苦しまないように……。

                    了
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